第3幕 革命裁判所の大広間
共和党員のマチューは、フランスの経済危機を民衆に説き寄付を募っているが、人々の関心を引くことが出来ない。現れたジェラールがマチューにかわって話し始めると、たちまち彼の訴えは民衆の心を捕える。人々が寄付をするなか貧しい盲目の老婆マデロンが歩み出て、革命で命を落とした息子の忘れ形見である十五才の最後の孫をも、国のために差し出すと歌う。アリア「私はマデロンという老婆です」によって更に人々の愛国心は更に煽られていく。カルマニョールの歌が流れ民衆が去っていく。ジェラールの元には、ついに逮捕されてしまったシェニエの告発状が用意される。何の罪も無いシェニエの告発状を前に躊躇するジェラールであったが、マッダレーナへの片思いがジェラールの良心を鈍らせ、ことさらにでっち上げた罪状の数々を告発状に書き込み書記官に渡してしまう。かつて革命の徒として高邁な理想に燃えていた我が身を思い、熱く歌う「祖国の敵」はジェラールの心の葛藤がみごとに表現されたアリアである。そこにシェニエの助命嘆願のためにマッダレーナがやって来る。ジェラールは、マッダレーナへの恋心からシェニエをおとしめてしまったことを告白してマッダレーナに迫る。マッダレーナはジェラールを拒むが、アリア「亡くなった母を」で、革命で母親が殺されたこと、地獄のような日々を、神から与えられたシェニエへの愛だけを支えに生きながらえてきたことを歌う。そしてシェニエの命を救えるのなら、ジェラールに自分の身を差し出すこともいとわないと言う。マッダレーナの一途で清らかな愛にうたれたジェラールは自らの行いを恥じ、シェニエを救うために長官に書状を送る。
いよいよ裁判が始まり連行された囚人達のなかにシェニエの姿があった。罪状が読み上げられ民衆が罵倒をあびせるがシェニエは凛として誇り高く、アリア「私は兵士だった」を歌う。与えられた恥辱に対し祖国のために勝利の旗を掲げるのだと。ざわめきが続く中ジェラールは告発状がでっち上げである事を告げるが、そのかいもなくシェニエに死刑の判決が下る。
この三幕でジェラールの「祖国の敵」マッダレーナの「なくなった母を」シェニエの「私は兵士だった」と続くアリアはまさに圧巻である。それぞれの人生が革命という個人の力ではとうてい抗うことのできない時代の力によってまったく違った方向へと決定づけられ、葛藤に苦しみ、喪失に絶望しながらも理想と愛に生きようとする三者の思いが胸に迫る。

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