第1幕
長崎の港を見渡せる、山の中腹にある家。
口入屋のゴローが、アメリカ海軍の士官ピンカートンのご機嫌を取りながら、彼の新婚用の日本家屋や、女中や下男たちを紹介している。そこへ、今日の結婚式に招かれた総領事のシャープレスがやって来る。ピンカートンは領事にウィスキーを勧め、ヤンキーは世界のどこでも気ままに旅して、美しい花を手にしなければ気がすまないと、ヤンキー気質を謳歌する歌を歌う。生真面目な領事は、何と自堕落なことだと慨嘆する。2人は「アメリカ万歳」と乾杯し、シャープレスはピンカートンに、本当に彼女を愛しているのかと質す。ピンカートンは、真実の恋か気まぐれの恋か、それは分からないと答えるので、領事は罪作りなことは絶対にしないようにと諭す。
間もなくゴローが花嫁の到着を知らせると、遥か彼方から美しい女声合唱が響いて来る。長唄「越後獅子」の旋律が奏され、綺麗な花嫁衣裳の蝶々さんが登場する。領事が彼女の身の上を訊ねると、自分の家はかつて武家だったが、ある事件で父親が切腹してから、家が落ちぶれそのために芸者になったと顛末を語る。そこへ親類や役人たちが入って来て、ステージは益々華やかになる。蝶々さんは持って来た小物入れから、これが仏像、これが父親が切腹した短刀と言いつつ出し、説明する。そして彼女は、昨日1人で教会に行き、キリスト教に改宗して来たと告げるので、ピンカートンは改めて感動する。
ゴローのお静かにという声で、結婚式が挙行される。神官が厳かに祝詞を挙げ、三々九度の神式の杯が交わされる。そして2人は婚姻届に無事サインをし、親戚一同との乾杯も終わる。皆がほっとしているところへ、僧侶で叔父のボンゾが「憎い奴め」といって怒鳴り込んで来る。ピンカートンはその理不尽さに、何を騒ぐかと一喝するが、ボンゾは蝶々さんが改宗したことを責め、親戚一同を促して退場してしまう。
涙にくれる蝶々さんと、ピンカートンの2人だけが舞台に残る。夕闇が迫り空には星が瞬き始め、女中のスズキが読経を始める。 重い花嫁衣裳を脱いだ蝶々さんは、白無垢の夜着に着替え
る。そしてここから、第1幕の最後を飾る長大で美しい愛の二重唱になる。蝶々さんが、みんなにこうして捨てられてしまったが、でも幸せですと歌うと、ピンカートンも、もう絶対に離さない、お前は私のものだと、彼女を固く抱きしめる。ここでは歌もさることながら、オーケストラの響きが雄弁で、官能と恍惚の気分を歌い上げて余すところがない。特に「美しい夜、きらめく星」と歌うクライマックスの部分がとり分け美しい。
(C) 出谷 啓
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