第2幕
 3年後の蝶々さんの家。スズキが一心不乱に祈っている。神様、これ以上蝶々さんを悲しませないでくださいと。彼女は机の引き出しを開けてみせ、残金がほとんどないことを示し、早く帰って来てくれないと困るとこぼす。そしてうっかり、外国の旦那さんはいったん帰国したら、みんな戻りませんと、口をすべらせてしまう。それを聞いた蝶々さんは、きっと旦那さんは帰って来ると激しく叱りつけ、有名なアリア「ある晴れた日に」をうたい出す。彼女の余りの純真さに、スズキはそっと涙をぬぐう。うたい終わったところへ、シャープレスとゴローがやって来る。領事はピンカートンから、手紙が届いたことを知らせる。蝶々さんは喜んで、あの人は駒鳥が巣を作る頃に帰って来るといったが、もう3度も作った。アメリカの駒鳥は、いつ巣を作るのかと訊ねる。これを聞いてゴローが笑い出し、蝶々さんは怒って彼を追い回しているところへ、金持ちのヤマドリがやって来て、外国人の旦那を諦めて自分の妾になれと口説くが、軽くあしらわれて追い帰される。領事は例の手紙を取り出して、ピンカートンが帰ってくることを告げる。だが蝶々さんがそれを聞いて余りにも喜ぶので、彼がアメリカ人の女性と結婚したというくだりを読むことが出来ない。そしてそれとなく、ヤマドリの求愛を受けたらというと、蝶々さんは急に怒り出し、彼に本当に捨てられたら、死ぬか元の芸者に戻るかのどちらかだと答える。そしてピンカートンとのあいだに出来た、子供を連れて来て悲痛なアリア「坊やのお母さんは」をうたう。領事はもう何もいえず、すごすごと帰って行く。
 するとそのとき港の方から、軍艦の入港を知らせる大砲の音がするので、蝶々さんとスズキは急いで廊下に出る。それがピンカートンの乗った、アブラハム・リンカーン号だと分かると、2人は「花の二重唱」をうたい、庭から花という花を摘み取って、座敷一杯に撒き散らす。夕日が落ちて静かな夜が訪れ、蝶々さんとスズキ、それに子供は窓のそばでピンカートンの帰りを待つ。そして神秘的な「ハミング・コーラス」が聞こえ、次第に更けて行く夜の雰囲気を盛り上げる。
 蝶々さんは一晩中一睡もせずに待っていたが、スズキは子供を膝に居眠りをしている。やがて目を覚ましたスズキは、坊やと少しおやすみになられたらというと、蝶々さん子供を抱いて別室にさがる。するとそこへピンカートンと、シャープレスがあらわれるので、スズキはびっくりする。スズキはこの3年間、辛い目に会いながらも、蝶々さんはじっと我慢して来たことなどを話す。それを聞いたピンカートンは、後悔に苛まれて胸を痛める。スズキは庭の片隅に立っている外国人の女性をみて、あの方はどなたと領事に訊ねると、領事はピンカートン夫人だと弱々しく答える。そこで領事はケート夫人が、子供を育てたいといっているので、何とか蝶々さんを説得して欲しいと頼む。その間ピンカートンは花で飾られたかつての愛の巣に接して、後悔の念に駆られてアリア「さらば愛の家」をうたい、その場にいたたまれずに去ってしまう。
 ケート夫人は自分の胸のうちを、スズキに切々と訴えるので、スズキもやむなく伝言を承知する。そこへ出て来た蝶々さんは、領事とケート夫人の姿をみて、すべてを悟ってしまう。領事から事情を聞いた蝶々さんは、子供はお渡しするから、もう30分もしたら来てくださいというので、領事と夫人は暇を告げて出て行く。蝶々さんは仏間に入って蝋燭を灯し、仏壇に祈りを捧げて、父親の片身の短刀の鞘を払う。そして喉に突き立てようとすると、襖が開いて子供が駆け込んで来る。彼女は子供をしっかりと抱きしめ、悲痛なアリア「可愛い坊や」をうたう。最後のキスをすると、子供に目隠しをして、屏風の蔭に隠れて喉に短剣を突き立てる。そのとき「蝶々さん、蝶々さん」と叫びながら、ピンカートンが飛び込んで来る。そして亡骸にすがり付いて、泣き崩れるピンカートン。悲劇の幕が閉ざされる。
(C) 出谷 啓
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