【あらすじ】
時と所:1911年・ミュンヘン、ヴェニス 第1幕
第1場/ミュンヘン
 著名な小説家であるアッシェンバックは、近頃めっきり創作意欲が失せて悩んでいた。そんなある日、彼は散歩の途中で1人の旅人と出会い、彼から南の国への旅を勧められる。アッシェンバックの心は一瞬で「南の国」に捉えられ、すぐさま出発の準備に取り掛かる。
第2場/ヴェニスへの船上
 アッシェンバックは汽車と船を乗継ぎポーラまで行ってみるが、そこで見掛けたヴェニス行きの船が気になり、今度はヴェニスを目指すことにした。出発直前の船上では、若い男たちが地上にいる娘たちに「一緒に行かないか!」などと声を掛け騒いでいる。そんな中、1人の洒落た年配男がうるさい若者たちに注意を促すと、アッシェンバックの方へ近付いて来た。船は既に出港している。彼はアッシェンバックに話し掛けて来たが、アッシェンバックはその男の薄化粧と派手な服装を胡散臭そうに眺めると、適当に相槌を打ってその場を離れた。暫く優雅な船旅を楽しむと、船は目的地ヴェニスへ到着する。(この場面の最後に流れる「序曲:ヴェニス Overture:Venice」は、ヴェニスの水路と鐘の音のイメージが描かれる)
第3場/ゴンドラの上
 ヴェニスに着いたアッシェンバックは、対岸のリド島へ渡ろうと、リド島行きの蒸気船乗り場までゴンドラを利用するが、ゴンドラの老船頭は勝手にリド島へと向かい始めた。遠距離の賃金をせしめようという魂胆らしい。アッシェンバックは呆れたが、既にゴンドラはかなりの距離を進んでいたので蒸気船は諦め、近付いて来た流しの歌手のゴンドラ目掛けて、コインを投げたりしていた。しかしゴンドラがようやくリド島へ到着し、アッシェンバックがホテルのポーターに荷物を運ばせている間に、ゴンドラの老船頭は船賃を受け取らぬまま姿を消していた。どうやら無免許で不正を働いている船頭は、船着場の者に捕まりそうになり逃げ出したらしい。「船賃が掛からなくてよかったじゃないですか」と言うポーターに多めのチップを渡し、アッシェンバックは後ろを振り返る。何故だか乗って来た黒いゴンドラが棺桶のように見え、まるで死の世界へと運ばれて来たような不気味な気分がした。
第4場/リド島のホテル
 ホテルの支配人が自慢げにホテルの素晴らしさを歌いながら、アッシェンバックを眺めの良い海側の部屋へ案内する。アッシェンバックは暫く海を眺めながら、当初の目的である「創作意欲を今一度高める」という決意を胸に誓った。その後食事を取るため食堂に向かったアッシェンバックは、各国の観光客の中にポーランド人の一家がいるを見掛け、その中に飛び抜けて美しい少年がいるのに気付く。アッシェンバックは、神がどのようにしてこの美しさを創り上げたのかと溜息を漏らした。
第5場/浜辺
 アッシェンバックが、物売りの娘からフルーツなどを買い浜辺で寝そべっていると、向こうから例のポーランド人の美少年がやって来るのが見えた。数名で遊んでいる彼はその時皆に愛称で呼ばれていたが、後に彼の名前は「タッジオ」であると分かる。妻と死別し子供も独立した今、アッシェンバックには文章によって美を創造することしか残されていなかったのだが、彼はこの時不思議と別の生命力がみなぎって来るのを感じた。
第6場/ヴェニス本島
アッシェンバックがヴェニス本島に出掛けると、物売りや物乞いたちに取り囲まれ、とても不快な思いをした。その上ヴェニスは運河の悪臭や人込みも酷く、嫌気の差したアッシェンバックは「そろそろヴェニスともお別れかな…」と、リド島のホテルに戻り荷物をまとめると、ドイツ行きのキップを手配した。ところがポーターが間違って荷物をコモ(イタリア)に送ってしまったために、アッシェンバックは荷物が戻って来る間、再びリド島のホテルに滞在することになってしまった。荷物の手配ミスを平に謝るホテルの支配人に、気分を害した態度を取るアッシェンバックだったが、何故だかこの場所に戻って来たことを喜んでいる自分に気付く。それがあの美少年のせいだと理解するのにそれ程の時間は掛からず、アッシェンバックは「これも神の計らいか」と、もう暫くこのホテルに残る決心をする。
第7場/浜辺
 アッシェンバックは浜辺に寝そべりながら、美しい少年タッジオが遊んでいるのを眺めていた。彼らは様々な競技を競うゲームをしているようだ(少年の美しさを「まるで太陽神アポロンのようだ!」と讃える観光客たちの合唱が聴こえ、天からアポロンの声もする)。競技は全てタッジオが勝利し、その勝ち誇った凛々しい顔にアッシェンバックは益々究極の美を見出し、暫し我を忘れる。その上タッジオは、帰りしなアッシェンバックに軽く微笑み掛けたりするので、年配の小説家の心は平常心を失い、思わず「君を愛している…」と小さく呟いてしまう。
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