第1幕
 場所はスペインのセヴィリャの近郊、そこの刑務所の地下牢には、政治犯のフロレスタンが幽閉されている。彼は刑務所長でもある、政敵のドン・ピツァロの不正を暴いたため、恨みを受けて監禁されてしまったのである。これを知っているのは、牢番のロッコだけで、フロレスタンの妻レオノーレは、男装してフィデリオと名乗り、ロッコの手下として潜入している。そしておりあらば、夫を救出しようと時を窺っている。
 刑務所の敷地内にあるロッコの官舎、有名な序曲の後、ロッコの娘のマルツェリーネが洗濯物を乾かしていると、門番のヤッキーノが来て彼女に結婚を迫る。だがマルツェリーネは、最近ロッコの手下になった、美青年のフィデリオに惹かれているので、彼の誘いに色好い返事は出来ない。そして一人になった彼女は、フィデリオに対する燃えるような心をうたう。
 外出から帰って来たフィデリオは、ロッコとヤキーノを加えて四重唱を始める。自分の娘にはレオノーレが最適だとロッコはいい、マルツェリーネはこれを聴いて狼狽する。またロッコは結婚は愛情だけではだめで、金もなければ幸せにはなれないと、世俗的な自分の哲学をうたう。そこでフィデリオはそれとなく、地下の囚人のことを聞き出そうとする。ロッコは善人らしく、2年ほど以前から、重要な政治犯が囚われていて、1ヶ月前から食事の量を徐々に減らして行くよう、所長から言い渡されているという。フィデリオは益々、それが夫だと確信を深める。
 突然力強い行進曲が聞こえて、門が開かれると、多くの兵をしたがえた所長のドン・ピツァロがあらわれ、ロッコから受け取った手紙を読む。彼の顔は見る見る蒼白になり、驚愕の表情を浮かべる。そこには監禁しているフロレスタンの同志で、大臣のドン・フェルナンドが、不法に監禁されている政治犯がいないかどうか、査察に来ると書かれていたからである。そしてピツァロは、これを機会にフロレスタンを殺してしまおうと計画する。ピツァロは部下たちに警戒を厳重にするよう命令すると、大金の入った袋をロッコに渡して、自分のいい付けどおりに、地下牢の囚人を殺せという。小心で根が善良なロッコは、とてもそんなことは出来ないと断る。ではお前は墓を掘れ、殺すのは俺がやるとピツァロ、ロッコは仕方なくピツァロについて行く。物陰からフィデリオがあらわれると、このオペラの最も有名なアリア、「悪者よ、どこへ急ぐのだ」をうたう。
 フィデリオが退場すると、入れ替わりにマルツェリーネとヤキーノがあらわれる。ヤキーノは、なおしつこく結婚を迫る。ロッコとフィデリオが再び登場して、ロッコはヤキーノに、この娘はお前にはやれないと、一喝する。そこでフィデリオは、今日は天気もいいので、囚人たちにも日光浴でもさせたらと、ロッコに提案する。ロッコは最初はためらうが、ピツァロの信頼を得ているのを心得ているので、独断でそれを許可する。そして囚人たちが陽の光を求めて、中庭に集まってくる。この場面で男声4分合唱によってうたわれるのが、これも大変有名な「囚人の合唱」である。そこへマルツェリーネが駆け込んで来て、ピツァロの許しもなく囚人たちを日光浴させたので、彼がかんかんに怒っていると告げるので、ロッコは慌てて囚人たちを牢に戻るように命じる。そこへ怒気満々のピツァロがあらわれ、ロッコを激しく怒鳴りつける。囚人たちの喜びも束の間に終わり、弱々しく合唱しながら退場する。
(C)出谷 啓
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