第2幕/客間
 一ヶ月後の日曜日の朝。すっかりこの屋敷に住み付いてしまったアナトールが、ヴァネッサと一緒に早朝のスケートから帰って来た。部屋にいた男爵夫人は二人を見たが、相変わらず一言も声を発することはなかった。そこへ主治医の老医師がやって来て「屋敷も最近は昔のように活気付いてきましたな」と、ヴァネッサやアナトールを相手にダンスを踊り出す。ヴァネッサは医師を朝食に誘うと、アナトールと共にテーブルに着かせ、自分は礼拝用の服に着替えるために部屋を出た。ちょうどそこへエリカがやって来たので、ヴァネッサは「今朝アナトールにプロポーズされたの」と話し、嬉しそうに別室へ入って行った。エリカは笑顔を作りながらも、胸が押し潰されそうになった。実はアナトールが初めて来た吹雪の晩、エリカは夕食の後彼にキスをされるとそのままベッドを共にし、彼に「責任を取って結婚する」と言われていたのだ。エリカはそのことを祖母である男爵夫人には告白していたが、ヴァネッサのために自分は身を引こうと思っていた。しかし実際彼がヴァネッサにプロポーズをしたと知ると、彼の気持ちは一体どうなっているのか聞きたくなった。問いただすエリカにアナトールは「今の時代永遠の愛なんて流行らないさ!君が求婚を断っても、僕は嘆き悲しんだりしないよ」と答えた。皆が礼拝に出掛けた後、一人残されたエリカは部屋の鏡や絵画を覆う布を全て剥がし「やっぱり貴方みたいな酷い男は御免だわ!」と庭に向かって泣き叫んだ。外からは讃美歌が聴こえ、布を取られた肖像画の中では若かりし頃の見目麗しいヴァネッサが微笑んでいた。
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