カラヤン指揮の秘伝 Part1

悩まない

良い指揮者の条件は?という質問に対して、「見やすい指揮!」と答えることは簡単ですが、かのフルトヴェングラーの指揮ぶりは「ふるとめんくらう」(振ると面食らう!)と今でもベルリンフィルの語り草になっているくらい、見にくい指揮の代表と言われます。

指揮者にとって、もっとも難しいアウフタクトの一つ、ブラームスの交響曲第4番の冒頭、オーケストラはフルトヴェングラーの右手が動き出してから11を数えて、その後首の傾きを考慮に入れて、最後はコンマスを見て演奏する・・・

これを後任のカラヤンはいとも簡単に指揮しました。指揮台に登るとちょっと集中した後、目をつぶり両手を前に構える、それから本当に何の悩みもなくスーと指揮棒を上に動かす。
オーケストラにとっては「エー!これアウフタクトのこと!??」と言う気分になったそうです。この「なやまない」ことがカラヤンの秘伝です。


必要のないことはしない

6拍子の図形

いわゆる6つ振りの図形は、右のような図形を書いてある指揮法の本が多いのですが、ここでカラヤンは意外や意外、3拍子の図形である、△形を2回振るのです。もちろんたまには左手の表情や音楽の流れで、小節の真ん中の4拍目を左から振ることもありますが、「そんなことどうでもいいじゃないか!」と言ってました。

レチタティーボ

おなじくレチタティーボの振り方。ドイツ、オーストリアの音大の指揮科ではこのレチタティーボの振り方を徹底的に習います。基本は小節の頭をはっきり振る。いわゆる空振りをきちんとして、オケがどこの場所にいるかを示します。モーツァルトの魔笛の中から一つ例を示します。


これを教科書的には、空振りをして顔の前で右手(指揮棒)を止め歌を待つ(つまりフェルマータ)そして sprang で右手を振り下ろし、これがオーケストラにとってはこの小節に入ったことを知らせ、かつ次のフォルテのアコードのアウフタクトになります。

しかしカラヤンの指揮は手は何もしない状態、つまりお腹の前で止めて待つ、そして sprang でアフタクトを開始して、フォルテのアコードを指揮する。

運動の状態を解説すればそれだけのことですが、ここでカラヤンの特殊性について考えると、第一にカラヤンは帝王と呼ばれていた通り絶対的な権力がありました。そして指揮をするのはベルリンフィルかウィーンフィルだけ、つまり魔笛くらい目をつぶっても弾けるほどの力を持っていたのです。
そしてコンマスがカラヤンの仕事の半分くらいやっていたのです。

しかしカラヤンはただ権力のあまり、おごった指揮をしていたと短絡的に考えるのは禁物です。カラヤンが指揮した、例えばこのアコード一つとっても、いわゆる教科書的に指揮した指揮者よりも「いい音!」がしました。
つまりいい音を出すために、こういう風に指揮をしたと思います。
確かにこの場合、指揮者が大げさに空振りをすると、せっかくの歌い手の自由な音楽を妨げるばかりでなく、いいオケにとっては、やかましく感じます。ただし若い指揮者がまねると、今度は「ちゃんと指揮しろ!!!」と言われるのは目に見えていますが・・・

カラヤンは最終的に自分が望むことの為に、常識や慣習をあっさり捨てました。

棒振りと指揮者、職人と芸術家、いろいろな指揮者がいますが、カラヤンは真のマエストロでした。

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