カルメンもお薦めのシェリー酒「マンサニーヤ」
Manzanilla

ビゼー作曲のオペラ「カルメン」にマンサニーヤというお酒が登場します。
第1幕のフィナーレ、喧嘩をしたかどで縛られているカルメンが、彼女を見張っているホセに対して歌うセギディーリャのアリアには以下のテキストが出てきます。

セビーリァの城壁近く
なじみのリーリャス・パスティアの店へ
セギディーリャを踊りに行くの
マンサニーヤを飲みに行くの!

また第2幕でそのリーリャス・パスティアの酒場でジプシーが踊り狂う場面も、もちろんこのマンサニーヤを飲んでいます。

さらにホセがカルメンを逃がして営倉に入れられ、ようやく出た後にカルメンの元に現れた時飲む酒もまたマンサニーヤです。

マンサニーヤはスペイン南部特産のシェリー酒です。カルメンではシェリーマンサニーヤと、ほとんど酒と同義語のように使われていますが、このマンサニーヤという銘柄の本物?のシェリー酒があると「世界酒大事典」で見て、音楽を、オペラを、そしてなによりこのカルメンを愛する者として、このマンサニーヤを探しに探してついに発見しました。

場所は日本橋の高島屋本店です。そこでお酒を専門に案内している方に「スペインのシェリー」と言って下さい。同じようなビンが十数本並んでいますが、よく目をこらして「MANZANILLA」を発見して下さい。375mlで2.300円でした。

このマンサニーヤはスペイン南部ジブラルタル海峡にほど近い、ヘレス(JEREZ)のLUSTAU ALMACENISTA という蔵元で古来からの方法で製造しています。シェリー酒にもいろいろな種類がありますが、ヘレスの北西約10キロの大西洋に面した小さな町サンルカール デ バラメーダ ( Sanlucar de Barrameda ) でつくられたものだけをマンサニーヤといいます。
ドライーシェリーでさっぱりとした飲み心地です。よく冷やして食前酒として飲むのがいいようです。
下の地図でもお分かりのようにセビージャ( Sevilla , セビリア)はヘレスの100キロほど北に位置します。  

演奏する立場としては、カルメンが愛飲して、ホセの人生を狂わせたあの「マンサニーヤ」を
口にすることはとても大切なことです。あとはカルメンを探すだけです!

オペラファンを自称するあなた!必飲の銘酒です。  

近くの海岸

シェリー酒とは

シェリー酒はフォーティファイド・ワイン(fortified wine)に分類され、強化ワインあるいはアルコール強化ワインとも言われます。スティル・ワインを作る途中、あるいはつくってから、主としてブランデーを添加し、アルコール度数を高めて、発酵を止めたり、味にコクをもたせるとともに、日持ちするようにつくりあげたものです。ポート、マデイラなどもこの強化ワインです。
もとは7つの海を支配していたイギリス人が航海の途中にワインの品質が悪化するのを防ぐため、熟成していないブランディーを入れたことから出来ました。したがって現在でもシェリー酒の大メーカーはイギリスです。
私は23歳のとき生まれて初めてプロオケ(ボーンマス交響楽団)を指揮しましたが、その場所がイギリスのブリストルという世界的なシェリー酒の町だったことから、このシェリーはいつもわたしの特別のお酒になりました。

シェリーは、スペインの南部、ヘレス・デ・ラ・フロンテラ地方(Jerez de la Frontera)の特産です。シェリーという名も、ヘレスという地名が訛って生まれたものです。

パロミノ(Palomino)、
ペドロ・ヒメネス(Pedro Ximenez)、
モスカテル(Moscatel)
などのぶどうからつくられます。


シェリーは辛口から甘口まで次のように分けられます。

○フィノ(Fino)

辛口。フロールの下で成長するドライシェリーで、かすかな淡い黄金色ですこしアーモン ドの香りをもちます。マンサニーヤ同様デリケートなシェリーで、フロールの膜の下 からとり出されると、たちまちに外気に触れて品質が低下してしまいます。瓶詰めさ れたらすぐに飲まなければならないので、良心的な生産者は新鮮さを保つために一度 に少量しか売り出しません。

○マンサニーヤ (Manzanilla)

サンルカール デ バラメーダ地区のみで生産されるフィノです。シェリーの中で はもっとも軽く繊細なタイプで、海の近くで熟成させるために海の影響が強くシェリ ーにあらわれ、若干の塩分を含んでいます。このマンサニーヤの樽をヘレス地区に移 すとたちまちヘレスのフィノに姿を変えてしまい、まさにこのスタイルはこのロケー ションのみから産れるものです。

○フィノ アモンティリャード (Fino Amontillado)

はじめはフィノになるべくフロールのよく発達したパルマとして育てられていたが、フロールの発達が弱くなり、アモンティリャードの特長も加わったもので、フィ ノとアモンティリャードの中間的なシェリーです。

○マンサニーヤ パサダ (Manzanilla Pasada)

これはフィノ アモンティリャード同様、マンサニーヤになりうるパルマから変化したものでフロールの発達が弱くなり、アモンティリャードの特長が加わったものです。
ふつうマンサニーヤよりも2年程度長く熟成される。これもサンルカール地区のみに見られるスタイルです。

○アモンティヤード(Amontillado)

フィノやマンサニーヤがフロールを咲かせたままソレラ・システムの工程に入るのに対して、アモンティリャードではその前にフロールがその短い一生を終えてしま う。そしてオリ(死んだ酵母)が完全に樽の底に沈んでしまうまで、若いワインのま まリフレッシュされずにそのまま置かれたフィノです。するとそのワインは色を深め 始め琥珀色となり、辛口でナッティなフレーバーを身につけ味わいが深くなって行きます。樽で十分な熟成を行わせるために樽の臭いが強くついていますが、熟成が進んでいるのでとても味はマイルドです。安いアモンティリャードはフィノにアルコール強化を行い、人の手でフロールを殺して造られますが、真のアモンティリャードは自然にフロールが死んで行ったものでなければなりません。フィノを最低5年間熟成したものをいいます。鳥肉、しっかりした味の魚料理、熟成したチーズとマッチします。

○パロ コルタード(Palo Cortado)

 フィノとして生れ、アモンティリャードのように成長し、オロロソのように深められた珍しいスタイルのシェリーです。フロールの発達が十分でないために、味わいと色はオロロソに似ていますが、アロマはアモンティリャードのように深く、たいへん 洗練されています。アルコールは17.5から23%。熟成年数によりパロ・コルター ド、ドス コルタドス、トレ・コルタドス、クアトロ・コルタドスに細分されます。

○オロロソ(Oloroso)

甘口。濃色で、コクのあるワイン。最低7年間熟成します。決してフロールを多く発達させることなく、早い時期に18%に若いブランデーを添 加してアルコール強化させたシェリーです。よく焦げた特長をつけるために、日光の下に樽が置かれることもありますが、涼しいボデガ(貯蔵場)の中でさえ水分が蒸発 して高いアルコール度数に達します。なめらかでナッツの香りや干ぶどうのような香 りをもち、アロマやボディは豊かです。一般のオロロソはペドロヒメネスというぶどうを十分に乾燥さ、あるいは煮詰めて作る甘いジュースを添加して甘口にされること が多いのですが、真のオロロソは常に辛口でありながらかすかに甘みを感じさせるも のです。食前酒あるいは赤みの肉とマッチします。

○ラヤス(Rayas) 

オロロソタイプのシェリーですが、際立った香りに欠け、あらゆる面でオロロソに劣ります。普通は安物のシェリーにブレンドして使われます。

○ペール・クリーム ( Pale Cream )甘口。うす暗い色でさわやかな香り。フォアグラや新鮮なフルーツサラダにマッチします。

○クリーム ( Cream )

甘口。オロロソに ペドロ・ヒメネスが入ったもの。マホガニーのような濃色。デザートと共に。


フィノは、まずパロミノからアルコール分が高く酸度の高い白ワインをつくります。
樽に入れるワインは7分目ほどのため、液面に産膜酵母(スペインではフロール= Flor)という白いカピが生じます。このフロールの働きで、辛口シェリー独特のフレーバーが生まれます。これをオリびきする際に、スペイン産ブランデーを添加して、アルコール分14〜15度にします。
一方オロロソの場合は、発酵終了後ブランデーを添加して、アルコール分を16度以上にします。樽は半年ほど屋外で日光にさらされた後、貯蔵庫に人れられます。これにより、特有の深みあるコクが生まれます。
シェリーは、このあと、ソレラ・システム*によって熟成します。こうしてつくられたシェリーは、最終的にはメーカーによって、それぞれ独自のブレンドがなされ、さまざまな商品名で発売されます。
フィノは淡白辛口に、オロロソはペドロ・ヒメネスの濃縮果汁をブレンドして、濃色甘口に仕上げられます。

*ソレラ・システム

ソレラとは「底」の意味です。3段から4段に積み重ねられた樽にそれぞれ4分の3位ワインが入れられています。下段には古いワインが、上段には新しいワインが人っています。一番下の段から瓶話めするためにシェリーをとり出し、その不足分を上段から順々に補充していきます。この方法により常に均一な品質のワインが得られるというしくみです。

ここまでおつき合いいただきありがとうございます。
おそらく日本でもかなり詳しいシェリー酒のページになったと思います。
私自身これまでシェリーといえばブリストル・クリームという、甘い、香りの高いデザートのようなお酒・・・と思っていましたが、カルメンの「マンサニーヤ」を一口飲んでその辛口なシャープな味にびっくりしました。そしてこのホームページを作り、その疑問は解決しました。マンサニーヤは海に面した小さな町サンルカール デ バラメーダしか!できないシェリー、その味は辛口で海の塩が入っている・・・
カルメンはやはり辛口の女でした。  Var.3(8.Aug.97)

マンサニーヤの故郷サンルカール デ バラメーダ近郊の町
アルコス デラ フロンテラからバラメーダ、ヘレス、大西洋を望む。

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