まほうのガラスびん

作 山崎なずな

え 西村 達馬




 「おにいちゃん、あした、なんの日だ」

 「わかんないよ」

 「あたしのたんじょう日」


 「えっ、あしたか、チコのたんじょう日」

 ねそべってマンガを見ていたおにいちやんは、

 こまったかおで、おきあがりました。

 「なにがほしいんだい」

 「なんでもいいけど……」

 ほんとをいうと、チコは、


 おにいちゃんが あれ をくれたらいいな、

 とおもっているのです。

 でも、たぶん、いえ、ぜったいだめだから、

 いえないのです。

おにいちゃんは、

ゆびをパッチンとならしました。

「よし、世界にたった一つしかないもの、やろう」

「へえ、なあに、それ」

「まあ、たのしみにしてな」

  
            「うん」

            チコは、まえばのぬけているところを見せて、

            にっとわらいました。

「はいよ、たんじょうびのブレゼント」

チコは、わくわくしながら、

おにいちゃんがくれた

プレゼントをあけてみました。

でてきたのは----

ただのとうめいなガラスびん。

中にくろあめが一こ。

チコはガラスびんを手にもつて、

上から見たり、下から見たり、

よこから見たりしました。

「これ、リンゴジヤムのあきびんだ」

がっかりしているチコに、

おにいちゃんがいいました。

「ただのびんだとおもったらおおまちがい。」

「中になにがはいってる?」

「あめが一こ」

「それをチコがたべちゃうと、どうなる?」

「からっぽ」

「ところがつぎの日になると、

びんの中にはちゃんとあめがはいっている。

つぎの日も、

またそのつぎの日もあめはでてくる。

これは、世界でたった一つの

まほうのガラスびんなのである」

「ほんとかなあ」

「まあ見ててみなってこと」

チコはくびをかしげながら、

くろあめをだして

口にほうりこみました。

  つぎの日のあさ、チコはおどろきました。

  からっぽのはずのびんに、また一つ

  あめがはいっていたのです。

  つぎの日も、そのつぎの日も、

  またそのつぎの日も。

  「ふしぎだなあ。どうやって

  あめがでてくるんだろう」

  「にわとりがたまごをうむのとおんなじさ。

  びんがあめをうむんだよ」

  おにいちゃんは、

  ねむたそうなかおでいいました。


ところがあるばん、 チコはよなかに目がさめました。

おにいちゃんがこっそりはいってきて、

まほうのガラスびんに
あめを一こいれて、

大あくびをしながらでていくのを!

なあんだ、おにいちゃんだったのか……

チコは、きゅうに

おかしくてたまらなくなりました。

あたまからふとんをすっぽりかぶって、

キュツキュツとわらいました。


つぎの日、チコはねるまえにてがみをかいて、

まほうのガラスびんにいれておきました、





≪まほうのガラスびんさまへ

もう、あめはださなくていいです。

むしばができちゃうとこまるから。

あめをいっぱいだしてくれて

ありがとう。 チコより≫

するとよくあさ、ちゃんと

へんじがはいっていました。



≪わかった。もうあめはださないことにしよう。

あめのかわりに、さいごにきねん品をいれておく。

ではさらば。 まほうのガラスびん≫


よく見ると、てがみのほかに

もう一つ、うすいかみでつつんだ

小さなものがはいっていました。

びんをさかさにしてだしてみると、

よくそれは切手でした。




みどりの森をうしろに、

金いろのつのをもつた甘いしかが立っています。

チコはピョンピョンとびあがって

よろこびました。

おにいちゃんが あれ をくれたらいいな、と

おもっていたのは、この切手だったのです!




     ぜったいくれっこない、と

     あきらめていた切手でした。

     チコはガラスびんをなでてやりました。

     やっぱりこれは、

     ただのリンゴジャムのびんじゃなくて、

     まほうのガラスびんだったのでね。




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