1998-08

アスペン音楽祭
今回は所を変えて、アメリカはコロラド州、アスペンよりお便りします。6月18日からここアスペンでは「アスペン音楽祭と夏期学校」が催され、私もオペラセンターの一員としてアスペンの小さな空港に降り立ちました。あの日からニカ月間の充実した夏を振り返りながらお話ししたいと思います。
ロッキー山脈の一部に位置するアスペン(標高は富士山の八合目)は山中の緑豊かな小さな町です。美しい景観を町のどこからでも楽しめるように、と建物の高さが三階建て程度に規制されていたり、町全体も西部開拓時代をほうふつさせるようなデザインで統一され、日ごろのけんそうから離れゆったりとした時間が流れています。

マロールト プレイス、学生の大半(約500人)がここで寮生活をしています。
49年の歴史を誇る
日本でもさまざまな音楽祭や講習会が催されていますが、アスペン音楽祭の歴史は古く今年で49年を迎えるそうです。
声楽、器楽(クラシックギターのコースもあります)、指揮、作曲、演奏の録音技師養成というユニークなコースもあります。約800人の学生が全米はもとより、世界から集まってきます。例えば日本からもたくさんの学生が来ています。
近い将来アメリカの留学を希望している人、師事したい先生と夏休みを利用して勉強する人、日本以外で自分を試しに来た学生たちが同じかまの飯を食べながら技術を磨き交流を深め、そして再び世界各地に散っていく様子はジュリアード等の音楽学校と全く違う雰囲気です。

オペラセンター
私の所属するアスペンオペラセンター(オペラ歌手を目指す学生のための研修所)には、全米主要都市のオーデションを通過した60人が集い、期間中に三つのオペラ公演と毎週土曜日に行う公開レツスンを主軸にけいこを重ねます。先のオーディションではオペラセンターへの合否決定のほかに、予定されているオペラ公演の出演者も決められます。
アスペン音楽祭はたくさんのスポンサーに支えられており、オペラ出演者は、学費、寮費、食費が免除になる研究奨学生として待遇されます。かつてオーディションに合格しても授業料が高いために辞退した経験を持つ私にとって「実力のある人には必ず機会が与えられる国、アメリカ」をここでも感じました。

開校式があったミュージックテントにて、ここでは
毎週日曜にオーケストラによるコンサートがあります。

常に本番を意識
いわゆる音楽学校(例えばジュリアード)での毎日とは違って、常に本番を見据えて毎日の練習があるので必然的に普段の練習の能率を上げレッスンでの内容をより濃くしようと努力するためか、こうして振リ返るといつの日か職業歌手になった時に経験していくであろう日々をアスペンで予備経験することができました。
共演した指揮者も世界一流の方々でしたが、かつて彼らもわれわれのように学生として下積があるので、ここでは同じ目の高さに立って話をしてくださり、まるで友達のように接する毎日の中でわれわれは確実に”良い物”を吸収することができました。
こうして抱えきれないほどたくさんのお土産をアスペンで得て、われわれは再び各学校に戻りゆっくリとそれらを自分の中で熟成発酵させ自分のものにして、来年の夏またここアスペンに戻りたいと思います。

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