あらすじ:
幕が上がる前に、まず有名な「前奏曲とシチリアーノ」が演奏される。舞台裏でトゥリドゥが歌う「シチリアーノ」は情熱的で、彼のかつての恋人ローラへの思いを込めた歌である。教会の鐘が鳴り渡り、幕が上がると、そこは南イタリアのシチリア島の寒村で、片方には教会、もう片方にはトゥリドゥの母ルチアが経営する小さな居酒屋が建っている。季節は4月の上旬、復活祭の朝。村人たちの合唱、「オレンジの花は香り、ひばりは歌う」が、明朗かつ爽やかに歌われる。
村人たちがそこを立ち去ると、サントゥッツァが浮かない顔色で現れる。彼女の愛するトゥリドゥは、かつてはローラと恋仲だった。しかし彼が兵役についている間に、ローラは馬車屋のアルフィオと結婚していた。そこで仕方なくトゥリドゥはサントゥッツァとつき合うようになったのだが、彼はローラのことを諦め切れない。そのことがサントゥッツァは、不満でならない。居酒屋から出て来たルチアにサントゥッツァは、トゥリドゥがどうしているか尋ねる。ルチアは彼は酒を仕入れに行ったと答えるが、サントゥッツァは昨夜この村で彼を見かけたという証人がいると言う。
すると鞭を盛大に鳴らしながら、馬車屋のアルフィオがやって来る。彼は村人たちを前に、景気のいい馬車屋の生活と、愛妻ローラを称える「駒が勇んで、鈴が鳴って」というソルティータを歌い始める。アルフィオは居酒屋に入って酒を注文し、ルチアがトゥリドゥは仕入れに行ったというと、「今朝、この近くで見かけた」と彼が言うので、ルチアはびっくりする。そのとき教会からオルガンと復活祭を称える合唱が聞こえ、広場にいた村人たちも思い思いに歌いながら教会に入り、舞台にはサントゥッツァとルチアだけが残る。ここでサントゥッツァは、自分の心のたけをぶちまける有名なアリア、「ママも知るとおり」を歌う。彼女はローラへの嫉妬と、彼への思いが届かないことを嘆くが、ルチアは泣き崩れるサントゥッツァを優しく慰める。
サントゥッツァが呆然として佇んでいると、そこへトゥリドゥが帰って来て、母がどこへ行ったか尋ねるが、サントゥッツァは逆に、彼が昨夜どこにいたかを厳しく問い詰める。この二重唱は劇的で、激しくやり合う二人の仲を象徴している。すると舞台の裏から、件のローラが歌う陽気なストルネッロ、「グラジオラスの花よ」が聞こえて来る。姿をみせたローラは、二人の様子を見て一瞬ハッとするが、いかにも平静を装い、アルフィオの居場所を尋ねる。そしてサントゥッツァを誘って教会へ行こうとするのだが、サントゥッツァが皮肉を込めて、罪深い人間は教会などに行くものではないとやり返すので、ローラも負けずに彼女を突き放して教会に入っていく。
トゥリドゥはこうしたサントゥッツァの態度が我慢ならず、彼女をなじった末に教会へ行こうとする。慌てたサントゥッツァは、どうか見捨てないでと彼に懇願して引き止めようとする。怒ったトゥリドゥは彼女を突き飛ばし、ローラの後を追って教会に入る。サントゥッツァが、人でなし、呪ってやると泣き伏しているところへ、ローラの夫アルフィオが通りかかり、完全に平静さを失った彼女は、ローラとトゥリドゥの道ならぬ恋を喋ってしまう。初めて事の真相を知ったアルフィオは、血の気の多いシチリア人らしく、復讐の誓いを叫びながら去る。これを聞いて彼女はハッと我に帰り、後悔の念に駆られる。ここで有名な、単独でもしばしば演奏される、「間奏曲」が流れて来る。オルガンを加えた、実に美しい旋律が魅力的だ。
間奏曲が終わると教会の鐘が鳴り、村人たちがぞろぞろと出て来る。一同がルチアの居酒屋へ入るとそれぞれの杯にワインを注いで、乾杯の歌「酒を称えて」を歌う。トゥリドゥも、恋のために、幸福のためにと朗らかに歌う。一同が楽しそうに騒いでいるところへ、暗い表情のアルフィオがやって来る。何も知らないトゥリドゥが、アルフィオにワインを注ごうとすると、アルフィオは冷たく、君の酒は飲みたくないと断るので、二人は口論になる。そしてとうとうトゥリドゥは、アルフィオの右の耳を噛んでしまう。これはシチリア島では、決闘の申し込みの合図である。アルフィオも、これを受け入れる。トゥリドゥは一時の感情に駆られて決闘を申し込んだことを後悔するが、ときは既に遅しである。アルフィオは、家で待っているぞとその場を去る。
トゥリドゥは酒に酔った風を装いながら、ルチアの前に跪くと、「さようなら、お母さん」というアリアを歌う。ここで彼は、サントゥッツァのことをよろしく頼むと、彼女を愛していることを伝え、慌しくその場を去る。息子のただならぬ様子を心配した母親が後を追いかけようとするところへ、急を聞き駆けつけたサントゥッツァが現れる。そして音楽がクライマックスに達したとき、遠くから女の叫び声が聞こえる。「トゥリドウが殺された」 それを聞いて村人たちが慌しく登場する。サントゥッツァは悲鳴を上
げて倒れ、母親のルチアも呆然と立ち尽くす。音楽は悲劇の幕切れにふさわしく、暗く激しく盛り上がって幕が降りる。
(C)出谷 啓
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