第2幕
真っ暗で陰惨な地下牢、その片隅に鎖に繋がれたフロレスタンが、静かにうずくまっている。彼は絶望しながらも、愛妻のレオノーレことを思っている。そして有名な「レオノーレ」序曲第3番にも使われている、旋律をもとにしたアリアがうたわれる。疲れたフロレスタンが、再びその場へうずくまると、ロッコとフィデリオが水がめと、穴を掘る道具を携えてあらわれる。ロッコは牢の片隅に死体を埋める、大きな穴を掘り始める。フィデリオはそれを手伝いながら、囚人が夫であるかどうかを注意深く観察する。気息奄々とした囚人が、ここの所長は誰かと尋ねると、ロッコが正直にピツァロだと答える。それを聞いて憤激した囚人をみて、それがまぎれもない夫のフロレスタンだと、フィデリオは確信する。
ロッコは最後の晩餐のつもりで、フロレスタンにワインを飲ませると、フィデリオはパンの少しの部分を与える。フロレスタンは、感謝する歌をうたう。ロッコが穴を掘り終わると、黒いマントに身を包んだピツァロがあらわれ、フィデリオを追い払う。だが彼女は片隅に隠れて、その場の様子を窺う。さっとマントを脱ぎ捨てたピツァロが、短刀をかざして、フロレスタンに近づいた瞬間、「下がれ」と大声でフィデリオが飛び出して来る。そして妻である私から先に殺せと叫ぶので、ピツァロもロッコもびっくりする。フィデリオの手には、しっかりと拳銃が握られているので、さすがのピツァロもどうすることも出来ない。ここでようやくこの若い下働きが、フロレスタンの妻レオノーレであるのを知る。するとその緊張を破るかのように、舞台裏からラッパのファンファーレが聞こえて来る。大臣の到着を告げる信号である。レオノーレとフロレスタンは、それこそ危機一髪で助かったのである。愕然として口惜しがるピツァロ、ただ呆然として佇むロッコ。再びラッパが高らかに鳴り渡ると、ピツァロとロッコは悄然として立ち去る。そしてレオノーレとフロレスタンは、気を取り直して喜びの二重唱をうたう。この後現在では「レオノーレ」序曲第3番が演奏されるのが普通だが、これはウィーンの宮廷歌劇場の総監督を務めていた、作曲家のマーラーのアイデアによるものだといわれている。
第2場は刑務所内の広場で、大臣のドン・フェルナンドが、ピツァロや大勢の兵士たちを従えてあらわれる。フロレスタンのほかにも、故のない濡れ衣を着せられて、投獄された政治犯が多くいたらしく、大臣が釈放した囚人たちがヤキーノに導かれて入場し、フェルナンドの前に跪く。そしてロッコがフロレスタンを連れて登場するので、大臣は生きていた彼をみて驚く。そしてロッコが、今までの経過を包み隠さずに報告し、レオノーレの勇敢な行ないを告げるので、群衆が悪人を罰せよと叫び、ピツァロは悄然と、兵士たちに連行されて行く。鎖を解かれたフロレスタンは、今や完全に自由の身となり、貞淑で勇敢な妻レオノーレとしっかりと抱き合う。正義の勝利と崇高な夫婦愛を称える合唱が大きく盛り上がり、壮麗な気分のうちに幕が下ろされる。
(C)出谷 啓
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