第6景/森の中
マティスは共に逃げて来たレギーナを、亡き彼女の父親リーディンガーのマントの上へ寝かし付けると、自分の無力さを嘆き溜息を吐いた。すると突然辺りに明るい光が差し、マティスの体はイーゼンハイムの聖アントニウス会修道院の守護聖人、聖アントニウスの姿になった。背景はイーゼンハイム祭壇画第3面の右場面「聖アントニウスの誘惑」となり、伯爵夫人が富を、副大司教が権力、愛するウルズラは物乞いになったかと思えばすぐに娼婦に…最後には殉教者の姿に変わって、皆でマティスを誘惑した。大司教の顧問官カピトは学問を、農民頭のハンスは戦いを…。悪霊たちの合唱と共に、皆がマティスを苦しめた。
しかしやがてイーゼンハイム祭壇画第3面の左側「聖アントニウスの聖パウロ訪問」に場面は変わり、聖パウロとなった大司教アルブレヒトが「神に与えられた才能を、再び人々のために発揮すべく絵筆を握るのだ!」とマティスに告げ消えていった。幻から覚めたマティスの目の前で、ゆっくりと朝日が昇っていった。
第7景/アトリエ
マティスは自分のアトリエで沢山の作品に囲まれ座っている。傍らには瀕死のレギーナが横たわっていたが、ウルズラの看病も空しく、マティスの描いたキリストの顔が父ハンスの顔に見える…と呟きながら死んでいった。(間奏曲:交響曲第二楽章)
夜が明け、アルブレヒト大司教がやって来る。マティスが大司教に絵の完成を告げると、大司教はお礼に自宅を提供したいと申し出るが、マティスは「森の獣同様、私も自分の死に場所は自分で探します」とこれを断り、大司教は帰って行く。マティスもまた荷物を詰めると、そっとアトリエを後にした。(幕)

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