<第２幕>シナイ山の麓
民衆はいつまでも戻ってこないモーゼスを「自分たちを見捨てどこかへ逃げたのでは？」と疑い始めていた。長老たちも「悪行に罰が与えられず、徳を積んでも報われない」という状況に不安を感じたが、アーロンは懸命に「神の掟が示されるのを待て！」と長老たちを説得する。しかしとうとう民衆は「モーゼスに死を！我々に元の神を返せ！」と70人の長老たちに詰め寄り、アーロンは仕方なく偶像の神を認めることとなる。アーロンが「モーゼスは神の手により殺されてしまったのかもしれない…」と呟くと、人々はそれを勝手に「きっと自分たちの信仰していた多神教の神に殺されたのだ！」と解釈し、新たなる神など無力なものだと蔑んだ。アーロンは仕方なく人々の用意した「黄金の仔牛が祀られた祭壇」を崇めるよう指示し、皆はそこへ次々と供え物を持ってきた。病気の女は仔牛の像に触るなり病が治ったと喜び、老人たちは自らの命を絶ちその身を生贄として捧げた。偶像を否定する若い男が像を壊そうとしたが、イスラエルの12の部族の長たちにあっという間に殺されてしまう。その後人々は酒を飲み、4人の裸の処女たちがその純潔な血を神に捧げるべく殺され、あちこちで女たちが犯され、物が壊され、喧嘩が始まる。人々は本能のままに暴れ、踊り、偶像の神に感謝の言葉を投げ掛ける。やがて騒ぎも治まり、その場を立ち去る者や眠りに就く者で辺りが静かになると、「モーゼスが帰って来たぞ！」という叫び声が聞こえた。
モーゼスは人々の様子を見て驚き、黄金の仔牛を言葉ひとつで消し去った。それを見ていた人々は、恐怖に慄き皆逃げて行く。たった一人残った兄アーロンは、モーゼスに偶像の愚かさを責められるが、モーゼスが持ち帰った「十戒の記された石板」を見るなり「石板の思想とて、所詮は偶像に過ぎぬ！」と反論し、それを聞いたモーゼスは石板を叩き壊し、絶望の余り神の使命から解放されることを願う。アーロンは遥か遠くに立ち昇る火柱を見つけ「あれこそ約束の地を指し示す神からの提示！」と叫ぶと、戻って来た民衆と共に火柱の方向へと立ち去って行った。残されたモーゼスは、人々を説得できない自分の無力さを嘆くと「ああ言葉よ！私に不足なのはそれなのです！ O Wort, du Wort, das mir fehlt!」と歌い、その場に倒れ込んだ。
第３幕へ
オペラ名曲辞典TOP