第3幕
第1場/領事館の待合室
 数日後。もうすぐ閉まる領事館の待合室に、マグダが独り座っている。「今日領事は留守なので、待っても無駄ですよ!」と言う秘書の言葉に耳も貸さず、ただぼんやりと座るマグダ。そこへヴェラ・ボロネルという女性が駈け込んで来る。彼女は秘書から「ヴィザが出来ていますよ」と言われ、マグダとは対照的に大喜びで書類にサインをし始めた。その時ガラス屋のアッサンがマグダを探しに現れたので、マグダは驚き夫に何かあったのかと問いただす。アッサンは困った表情で「子供や母親の死を知ったジョンが、すぐにでも妻に会いたいと言っている。彼が戻って捕まれば、仲間も危険に晒されるんだ!」と頭を抱えた。マグダは咄嗟に「自分さえいなくなれば夫は戻っては来ないだろう」と考え、夫宛に1枚のメモを書くと小さく折り畳んでアッサンに渡した。マグダは平静を装い「これをジョンに渡せば、彼は戻って来ないはずだわ」とアッサンに言うと彼を帰し、自分もふらふらとその場を後にした。その後サインを終えたヴェラが、マグダの手帳が落ちているのに気付き秘書に預けるが、秘書は「ソレルさんはまた明日も来るでしょうから、その時にでも渡しましょう」と手帳を棚に仕舞い込んだ。そこへジョンが現れ「妻はどこだ?」とマグダの名を告げるので、秘書は「奥様は先程帰られましたが、この手帳をお忘れになりましたよ」とマグダの手帳をジョンに手渡した。
 その時待合室に秘密警察官が踏み込んで来た。ジョンを捕えようとする彼等に、秘書が「国際法違反です!」と叫ぶが、警官たちは「彼の自由意思なら問題ない」と訴えジョンを連行して行った。秘書は可哀想なソレル夫婦に同情し、連れて行かれるジョンに向かい「奥様には連絡しておきます!」と言葉を掛けた。
第2場/アパートの一室
 死を覚悟したマグダは部屋を閉め切り、ゆっくりとガス栓を開く。混沌とした意識の中で、彼女の頭の中には待合室の人々や秘書や警官たちが浮かんでくる。ジョンや母親も姿を現す。その時激しい電話のベルの音がして、一時は現実に引き戻されたマグダだったが、伸ばしたその手が受話器を取ることはなく、彼女は再び意識をなくす。部屋にはただ電話のベルだけが鳴り響いている。(幕)

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