時と所:キリスト生前の紀元前4年〜紀元後3年頃・とある田園及び快楽の街
全1幕/のどかな田園と快楽の街(教会内部を田園と街に見立てている)
 (暗闇に一筋の光が差し、修道院長と修道士たちが無伴奏聖歌「東の空に日は昇れり Jam lucis orto sidere」を歌いながら登場。修道院長がこれから始まる物語の概要を語ると、誘惑者の衣裳に着替える。修道士たちも修道服を脱ぎ捨て、それぞれの役の衣裳になる。)
 爽やかな朝。父親は畑仕事へ出掛ける息子たちと小作人に向かい「神から与えられた豊かな土地と陽の光、そして全ての愛や平和にも感謝をしつつ、今日も一日怠けずに働こう!」と言い彼らを送り出す。真面目で働き者の長男は小作人たちと共に意気揚々と畑へ向かったが、最後まで残っていた怠け者の次男はなかなか重い腰を上げない。そんな次男の心の隙を突くように、誘惑者の影が忍び寄る。誘惑者が「そんなに毎日働いてどうする。若いうちにもっと外の楽しい世界を知っておかなければ勿体ないぞ!私はお前の心の中に潜むお前自身だ」と次男に語り掛けると、次男は仕事そっちのけでまだ見ぬ外の世界に期待を膨らませる。そして父親の反対を押し切り、拝み倒して分けてもらった財産を手に家を出て行ってしまった。長男は呆れて怒り、小作人たちは次男の身を案じるが、次男は大金を携え快楽の街へ。そこでは「本能の赴くままに快楽を求めるのだ!」と囁く誘惑者の声も日増しに増え、次男は初めて味わう酒や女に溺れる日々を送る。しかし酒を飲んでも女を買っても必ずお金は出ていくもの。次男はあっという間にお金を使い果たし、残り僅かな分も誘惑者の勧めたギャンブルで全て失ってしまう。目の前にいる乞食たちと同じ立場になったと悟った時、次男は漸く自分の愚かさに気付き後悔で胸が押し潰されそうになり、そんな次男を誘惑者が嘲笑う。途方に暮れる次男の心には、もう懐かしい故郷と優しい父親の顔しか浮かんでこなかった。例え愚かな自分を許してもらえなくても、使用人の一人としてでもいいから家へ戻ろうと決心した次男を、故郷の父親は温かく元の息子として迎え入れた。次男の無事の帰宅を祝う宴会が開かれると、働き者の長男は「あんな勝手な放蕩者に…」と父親に不満をぶつけるが、父親は「私とずっと一緒にいたお前には、私の物全てが与えられていた。しかし弟は一度死んだのに生き返り、無事に戻って来たのだから共に喜ぼうではないか」と優しく長男を諭す。その言葉に長男も素直に頷いた。そして全員で「死んだが再び蘇った。迷子になったが見付かった。Was dead and is alive again, Was lost and is found…」と喜びの合唱をする。
(修道院長がこの物語の中にある教えを聴衆に説くと、元の修道服に着替えた修道士たちと共に再び無伴奏聖歌を歌いながら闇の中へと消えて行く。)(幕)
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