第11場/モスクワの街中
 モスクワ市内はすっかりフランス軍に占領され、日々略奪が繰り返される。街に残ったロシア人たちは、フランス兵に与えるくらいならと農作物や家に火を放つ。フランス軍のダヴー将軍は、ロシア人たちの行動を厳しく取り締まり、放火犯として何人もの市民を見せしめに処刑した。ナポレオンの暗殺を狙ってこの地に戻っていたピエール伯爵も、スパイ容疑で逮捕された。彼は街でナターシャの侍女ドゥニーシャと出会い、ナターシャが数名の負傷者たちを馬車に乗せてモスクワを出たこと、その負傷者の中には偶然にもあのアンドレイがいたことを聞いていた。ピエールは運良く処刑を免れたが、市内は火の海と化し、あまりの惨劇に気の狂った人々が辺りを走り回っている。ピエールと共に捕えられていた老兵士のカラターエフがピエールに優しく話しかけ、その後都の焼け落ちる姿を見て嘆く。
 ナポレオンが現れ、フランス軍に屈しないロシア国民の民族性に脅威を感じながら「恐ろしい光景だ..」と呟き、多くのロシア国民が最後まで戦う覚悟を歌い続けた。
第12場/ムィチシチの農家(モスクワ郊外)
 負傷したアンドレイは、生死の境を彷徨いながらナターシャの夢を見る。ふと意識が戻ると目の前に本物のナターシャがいて、アンドレイに自分の不実を詫びている。アンドレイは愛するナターシャとの再会を喜び、今度こそ幸せになろうと誓い合うが、間もなくアンドレイは息絶えて、2人の願いが叶うことはなかった。
第13場/スモレンスク街道
 吹雪の中、フランス軍がロシア人捕虜を連れてモスクワから撤退する。最後尾の捕虜の中には、ピエールと老兵士カラターエフの姿もあったが、体を壊しもう歩けないと訴えたカラターエフは、フランス軍兵士に射殺された。その時口笛の合図と共に、デニーソフ中佐率いる多くのパルチザン軍兵士が攻め込み、フランス軍は壊滅、捕虜は解放された。自由の身となったピエールは、妻エレンと友人アンドレイの死を知らされ、更にエレンの兄アナトールは両足を失い、ナターシャは体を壊しアンドレイの妹マリヤの所に身を寄せていると聞いた。モスクワには悲惨な状態を耐え抜いたロシア国民が、ぞくぞくと戻って来ていると言う。
 ロシアの正規軍と共にクトゥーゾフ元帥が現れ、戦いの勝利を告げると、民衆は「万歳!万歳!」と叫びながら勝利の歓喜に包まれた。(幕)
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