<第3幕>
第1場/マリーの部屋  ヴォツェックの妻マリーが聖書を読んでいる。夫以外の男と姦通した女を神が赦し、二度と過ちを犯さないようにと諭す章である。昨日も今日もやってこないヴォツェックのことを考え、言いようのない不安に駆られるマリーは、自責の念を抱きながら再び聖書の同じ場所に目を落とした。
第2場/池の辺
 ヴォツェックがマリーを池の辺へと連れ出した。小道のベンチに並んで腰掛けると、ヴォツェックはマリーに「お前は貞淑な妻なのだろう?」と言いそっとキスをした。うろたえるマリーが立ち上がると、東の空に不気味な赤い月が見える。ヴォツェックは静かに「あれは血の色だ..」と呟くと、隠し持っていたナイフでいきなりマリーの心臓を一突きした。マリーはその場に倒れ込み、すぐに絶命した。
第3場/酒場
 酒場で陽気に踊る人々の中にヴォツェックはいた。何もかも忘れたいと言わんばかりに騒ぎ立てている。ヴォツェックは泥酔して、マリーの隣に住むマルグレートに抱き付き、彼女に歌を歌えとせがんだ。その時マルグレートは、ヴォツェックの手に血が付いているのを見つけた。最初はどこか怪我でもしているのかと思ったが、同じ手の腕の部分にも血が付いているので、マルグレートは悲鳴を上げた。すると周りにいた人々も騒ぎ出したので、ヴォツェックは慌てて店を飛び出した。
第4場/池の辺
 ヴォツェックは凶器のナイフを殺害現場に置いてきたことを思い出し、池の辺へと戻ってきた。自ら手にかけたマリーの死体に躓くと、すぐ傍に血の付いたナイフが落ちていた。ヴォツェックはナイフを拾い上げると池の中へ投げ入れた。しかしあんな浅い場所ではすぐに見つかってしまうと、池の奥へとどんどん進み、そのまま水の中へ沈んでいった。そこへヴォツェックの生体実験をしていた医師と、上官の大尉が通りかかった。医師は池の奥から人の呻き声が聞こえると言うが、大尉は気味が悪いので帰りましょうと言い、2人はさっさと引き返していった。
第5場/マリーの家の前
 マリーの家の前で子供たちが遊んでいる。そこへ1人の子供が駆けてきて「マリーおばさんが死んでる!」と言った。子供たちはマリーの子供に「お母さんが死んだって!」と言うと池の方へ走り出した。マリーの子供は、暫く無邪気に1人で遊んでいたが、やがて皆の後を追って池の方へと消えていった。(幕)

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