1998-04

ジュリアードの年度末
春。入学式、入社式に始まり日本では新しい息吹が街のそこここに感じられる季節。ここニューヨークの春は日本の3月の様に年度の締めくくりの季節です。
ジュリアードの学生は5月の上旬にある期末試験(学科と実技)の勉強に迫われ、卒業生は必修単位である卒業リサイタルと卒業後の住居や仕事のことで頭が一杯。普段から独特の緊張感に包まれている学校ですが、年度未を迎えその高まりは沸騰点に違した感があります。
何故煮えたぎるほどに熟くなるのでしょうか。一年(約7ケ月)の成果を出したい、自分のライバルに負けたくない、といった理由の他に、試験の結果が次年度の奨学金の多少に反映される事が考えられます。

世界一の奨学金大国ジュリアード

ジュリア−ドには「ジュリアード・ローン」という授業料を数年に亘って支払う方法、アメリカ政府ニューョーク州等公的機関からの奨学金、個人または団体の私的奨学金等があります。
学費授助を受けたい学生は所定の書類を提出し、学校からの返事を侍つわけですが、そこで大切なのが演奏や学科の試験結果です。
これは新入生も同様で、入学希望者で学資援助も希望する場合、学校は入学試験の成績をもって奨学金の多少を決定します。
私も合格通知と共に授業料半額分の奨学金支給の知らせを受けた時は、天にも登る気持ちだったのを思い出します。しかし授業料、寮費、そしてニューヨ−クでの生活費まで奨学金で賄っている学生と最近知り合い、上には上がいるなあ、と実力の世界、アメリカを垣間見る思いをしました。

(上の写真はジュリアードの創設者オーグストゥス・ジュリアード氏のレリーフです。)

学内のアルバイト
アメリカでは留学生の労働は基本的に学内でのみ、週に20時間以内と規定されているので、アルバイトによる収入は殆ど期待できない状況で、できればアルパイトの時間も惜しんで練習時間に使いたいジュリアードの学生にとって奨学金は大変に貴重な存在です。学校案内に掲載されている奨学金財団の名簿にほ、ざっと220の団体や個人の名前が載っています。

(左の写真は学内でのアルバイトの一つ、毎日こうして800人の学生に郵便を振り分けます。)
日本人のパトロン
その中の一人、林瑞技さんのお話しをしたいと思います。林さんは日本に住んでいますが、遠くジュリアードで学んでいる学生に援助を始めて6年目になります。学校から数人の推薦を受けた後、自らニューヨークを訪れ、昼食をとりながら面談をし、演奏を聞き、どの学生に援助をするか決めるのだそうです。
「自分のお金は自分が納得した人に役立たせたい」と話す林さんの奨学金を受けとった学生も、自分の勉強の支えとなる人と知り合うことは大変に有意義であると思います。
林さんの奨学金のもう一つの特徴は年一回の奨学生による音楽会です。

この音楽会はジュリアード内のホールで催され、チケット代金は『ジュリアード・プレ・カレッジ(ジュリアードを目指す小、中、高生を対象にした予備校)』で学ぶ経済的に恵まれない子供達数人に奨学全として支給されます。
そして将来、プレ・カレッジを卒業し、ジュリアードに入学する学生の中には、再び林さんの財団奨学生となり、今度は白分が音楽会で演奏することで後輩にお返しができる。という具合になっているわけです。
林さんも「私に返さず、下級生に返して欲しい」と奨学生を励ましているそうです。

(右の写真はモーリスホール、これら学内のあちこちのホールや施設も寄付で成り立っています。)

また先頃、私の声楽指導をなさっているジョンソン先生に「5千ドル(約65万円)を誰かに役立てて欲しいので、学生を推薦して下さい」という内容で電話があり、先生は早速一人を推薦し、その学生の演奏会の日程なども紹介したそうでず。

奨学金は成績優秀のあかし
入学して間もなく「ここでは実力があれぱ(成績が良ければ)お金は要らないから、がんぱって勉強しなさい」と教えられた事がありました。ジュリアードでは、奨学金を沢山もらっている事は経済的に余裕が無いということよりむしろ勉強に励み成績が優秀であることを意味していると言っても過言では無いように思います。ここにも日本との違いを強く感じさせられました。

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