昭和45年8月2日西目村池田課長から9月1日の西目村記念日に佐々木教授を表彰したいのだが、お出で願えるだろうかと電話があった。
丁度9月3日羽田発でロンドンで開催される第6回世界心臓学会議に出席する予定になっていたので、日本海で西目に行けば間に合うと思ったので出席の返事をした。
朝早く弘前駅に教室の方々また丁度弘前に両親滞在中の父が家内ともども見送りしてくれた。このとき父が階段を踏み外して回転して転んだときには、汽車の窓から「ああ」と思ったことを思い出す。幸いなことに父は無事だったが、小さいときから柔道をしていたから平気だったとすました顔で家内に言い訳をした話があったことをあとで聞いた。
昭和三十二年以来先生の御尽力によって毎年村民の血圧測定を実施していただきました
その為に村民の衛生思想は急速に向上し脳卒中の予防並びに村民の保健管理に大きく貢献することが出来ました
特に昭和三十九年本村が保健文化賞受賞の栄誉を享けましたが一重に先生の御指導と御尽力の賜と村民一同心から感謝いたしております
茲に西目村記念日に当たり記念品を贈り感謝の意を表します
この村の保健活動については別に「覚書」を書いたが、その時の「挨拶」のテ−プがあったのでその内容を記録のために書いておくことにする。
「このようなおめでたい会に私ごとき者に感謝状を頂戴いたしまして大変ありがたく思っております。
機会がありまして32年の夏でありましたか西目村に来るようになりました。 それ以来、皆様方の高血圧対策と申しますか健康対策のお手伝いをすることが出来まして今日にいたったわけでございますが、大変よく続いたものだと思います。
もう大分前のことになりますが、沼田の部落に参りまして、前の村長さんの、亡くなられた佐々木幸一郎さんご夫妻の血圧を測定したことがございます。
今の斉藤村長さんは健康を優先するというスロ−ガンで村長さんになられて、昭和32年に初めてお会いいたしたときは随分若い村長さんだなと思いましたが、今は大分しらがが増えられて、大分ご苦労が重なったんじゃないかと思います。
又一方、議長さんの正木さんはず−っと今まで元気で、又助役さんの今は現役をしりぞかれた鈴木さんから渡辺さんまで、又当時の課長さんと申しましょうか今保育所をやっておられる斉藤秀三郎さんから、又現在の池田課長さんまで。保健婦さんの鷹島さん、佐藤さん、いろいろありまして真坂さん、又一人最近来られたということでがざいます。 衛生委員の方々も今日表彰されました。 このように非常に大勢の方々のご努力がみのっているのではないかと、今思いおこすのであります。
本日の感謝状には私の名前が出ておりますが、私達の方から申しますと、私一人の力でございませんで、高血圧の対策を考えますと名前を忘れて頂きたくない武田先生、福士先生、この方々は今、弘前大学の養教養成所の教授で活躍されています。 又弘前大学の医学部の学生諸君も一緒に参りまして、すぐむこうの三浦先生のお家の近くの校長住宅のところで合宿しまして、第一回生は橋本、山田、栗林、柿崎、菊池の各先生、今は現役でバリバリやっております。その他数えてみますと、もう百人近く、非常に大勢の学生諸君でこの場で皆様と一緒に勉強できたということでございます。
昭和32年のはじめの頃結核というものは岡治道先生のご指導で軌道にのっておりまして、ある程度済んでおったように思いました。 そこで高血圧対策と申しますか成人病対策と申しますか、これは今世界中で今非常になやんでいる、又どういった方法でやっていいかどうかわからない問題でございます。 そういうところをこの西目村でいち早く手をつけられました。 当時は秋田県では全然やっておりません。 日本中でもほとんどやっておらないその時に、村の予算をとられ、このようにやってこられたことは これは大変なことであると思います。 国際的にいっても大変なことだと思います。ちょうど私が手をつけておりました勉強とぶつかりましたので、お手伝い出来たと思っております。
実は私ごとになりますが、明後日羽田を発ちましたロンドンで開かれる第6回世界心臓学会議に出席することになっております。 その会議の中の話題の一つに高血圧の成因というのがあります。 わかってしまえば話は簡単なのでございますが、まだわからない、そういう問題のところで、日本の、そしてその特徴である、私も皆さん方に口をすっぱくして申しましたことですが、どうも日本人あるいは東北の方々が食塩を多く摂りすぎているのではないかということを発表してきます。塩っ気は少なくしたほうが良いだろう、冬は暖かく暮らした方が良いだろうという二つを申し上げておったわけですが、まあそのことを少し話せという指名がございまして行ってまいります。
皆さんの成績、特に中学生の生徒の血圧については、渡辺キエ先生なんかに大変お世話になりまして、どうも小さいときからの生活というものが非常に関係しているのではないかというアイデイヤを出してきたいと思っております。 どういう風に世界に反映するか、私に大いに責任があるわけでございますが、まあこういう勉強が出来たということも私にとって幸いなことであったと思います。
で先程村長さんから保健文化賞を村で戴いた時のお話がございましたが、こういった健康の問題というものは長年築きあげられていくものである。第一生命の矢野さんのお話でしたが、表彰状を貰ってしまうとその後色々な村に行ってみるとさっぱり何もやっていないという印象をいわれております。 ところがこの村はおそらくちがうのでであろうと思います。
この村に参りまして、農政を語るには西目村を知らなきゃいけないと書いた本を読みました。この村には非常に長い伝統と歴史があると思います。その伝統と歴史の中のほんの十数年でございますが、私自身一部でもお手伝い出来たということは本当に嬉しく思っております。 ただ感謝状などをいただきますと、もうこれで結構だということに普通はなりかねないと思いますが、まあ機会がありますれば、私もひとつ大いにこれからも勉強していきたいと思っております。
もう一つ最近のニュ−スで実は青森県のある村の方で、今大阪でやっております万博に出かけました。朝七時貸し切りのバスで青森をたって、ず−とこの西目村の国道を通りました。お昼頃通ったんだそうですが、どうも大変きれいな村だなということを皆思ったそうです。そしてふと見ましたら、そこに西目村と書いてあったというこういうわけでございます。ちょうど一緒に乗っておりました保健婦さんが、ここが佐々木先生が行っている西目村だなということで、私はその帰朝談を聞きましたがわがことのように嬉しかったのでございます。 こういうことは皆様方の、とくに婦人会ということになりますと三浦オヨシ先生を出さなきゃなりませんが、そういういろいろの方々の努力がというものが、この地域では本当にもう身についている。そういう気持ちがするわけでございます。
本当に私自身も嬉しく、又皆様方の今後のご発展を心から願うものでございます。
本日は本当にありがとうございました」
東北地方住民の血圧測定として西目村民の血圧は昭和32年12月から昭和50年8月まで、夏冬年2回ないし1回、合計23回の集団的血圧測定によって、30歳以上の住民の男の87.6%、女の92.3%にあたる1,113名の血圧値がえられている。その他中学生の血圧も。
その結果の検討論文は弘前医学(34,1982)などに報告された。