「リンリ・リンリといって鈴虫でもあるまいし」と「医の倫理」を真面目に論議している方をバカにしたような言葉がいわれたことがあった。
「言葉・文字そしてその意味」を考えている自分にとっては日本でいう、また用いられている「倫理」と欧米でいわれているそれに該当する言葉とはどうも違うのではないかとの思いがある。
辞書には「倫理」は中国の礼記の「人の道」「人倫のみち」「実際道徳の規範となる原理」とあり「道徳」と同義語である。一方「倫理学」とは「ethicsに井上哲次郎が当てた訳語」「エ‐トスの学」とある。
どうもこの「倫理」と「エ‐トス」の差に問題があるように思えるのである。
図書館で「ロゴスとことば」(ステイ‐ヴン・ブリケット)を見ていたら、ゲ‐テの言葉として「翻訳するにあたっては、翻訳不能なるものの淵にまで赴かなければならない。そのときはじめて、その国民やその言語の異質性を真に認識できるのだ」が紹介されていた。
「弘前医学」創刊50周年記念稀覯医学書展に松木明知教授が出された「西欧医学の系譜」の中で「医学・医療の倫理についての世界で最初の単行本」として「MEDICAL ETHICS」(T.Percival)が展示されていた。
第68回日本衛生学会での「疫学・予防医学の倫理に関する文献学的考察」を発表された中村健一教授らの研究も、MEDLINEからの「ethics」などのキ‐ワ‐ドでひろったと述べていた。
「古代ギリシャの知恵と言葉」(荻野弘之教授)によれば「倫理」にあたる英語の「エシックス」はアリストテレスの「エチカ」から由来し、「エチカ」とは「人間の性格とか人柄をあらす「エ‐トス」からきて、習慣(エトス)という言葉が変化して、人柄(エ‐トス)という言葉になったといわれる。
儒教的な倫理の伝統と西欧のエ‐トスの狭間にある現代の日本と今考えているのである。(991008)