Prospective epidemiological studies of blood pressure in a high-salt population in northeastern Japan were investigated along with dietary habits such as miso soup, rice, apple, fish, milk and sake consumption as well as smoking habits. Blood pressures of the populations in 3 villages were determined once or twice a year by mass surveys from 1954, 1957 or 1958 through 1975. The means and transitions of thepersonal blood pressure were calculated by regression analysis of the data obtained during each entire period. The number of persons was 1127 males and 1369 females and the response rate was 98.7 percent. The average number of times of determination of blood pressure for a person was 12.9.
Stepwise multiple regression analyses were run with the means and transitions of systolic and diastolic blood pressure as the dependent variables and the life styles of the population in 1958 as an independent variable based on data of persons whose blood pressures were determined 5 or more times during the entire period. According to the backward stepwise method this study confirmed the positive relationship of age and sake drinking and the negative relationship of apple eating habits to blood pressure.
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1950年の人口動態統計によると日本の東北地方の「中枢神経系の血管損傷」に概括される疾患による死亡率は,国際的にみてもまた日本の中でも,男女とも年齢別にみて若い年齢から死亡率が高くなり,冬高く夏低いという季節変動があることが認められたが,その理由は明らかにされてはいなかった。
近藤正二ら1)は脳縊血の成因についての衛生学的研究によって,東北地方の人々が若く壮年期に脳縊血で死亡するのは,生活とくに食生活に関連しているのではないかということを指摘した。
われわれは1954年に東北地方住民の脳卒中予防のための疫学的研究として,死亡率を検討すると共に住民の血圧測定を行い,生活諸条件との関連について検討を開始したが,住生活として冬の室内の温度環境を考えることに脳卒中予防の意義があるのではないか2,3)また食生活のなかで食塩の過剰摂取に疾病発生論的意義があるのではないか4−6),またりんご摂取に高血圧予防の手がかりがあるのではないか7)ということを指摘した。これらは疫学的研究のうちの記述疫学,また横断的疫学による研究上の手がかりであったが,その後東北地方における3地域人口集団について約20年追跡した結果のうち,血圧水準の推移とそれらと生命予後との関連についてはすでに報告した8,9)。
本報告では,約20年追跡できた東北地方住民の個人ごとの血圧水準およびその推移と血圧調査開始時の生活諸条件との関連を検討した結果,われわれの研究対象地域になった住民は食塩過剰摂取地域に長年住んでいる人々であり,加齢による血圧の上昇と血圧分布の幅が広がることを認めるが,りんごを摂取することによって加齢による血圧の水準の上昇と分布の広がりが調節されているのではないかとの所見を得たのでその成績について報告する。
調査対象は集団的血圧調査を行った東北地方住民10)のうちの青森県弘前市狼森(以下Oと略),青森県尾上町金屋(以下K)および秋田県西目町(以下N)の3地域人口集団であり,表1に示すように1957年現在年齢別にみて30歳から60歳代の出生コホートであって,住民台帳による対象人口男1152女1378計2530名中それぞれ1127,1369,2496名(97.3%,99.3%,98.7%)についての資料が得られた。
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血圧測定はわれわれが詳細に定めた方法11)により訓練された主として医学生が測定にあたったが,聴診法により数回測定して末尾偶数値として読みとった最高血圧が一番低値を示したときの最高・最低血圧値を記録値とした.
夏冬年2回あるいは年1回,集団的血圧測定を行い,それぞれの機会に各種調査も行い,その結果の一部はすでに報告したが,今回検討の資料は1958年におこなったアンケートとの関連の検討が主である。
対象Oでは1954年から75年まで合計38回,対象Kでは1958年から75年まで合計22回,対象Nでは1957年から75年まで合計23回血圧測定が行われ,同一人について平均12.9回の血圧測定値が得られている。
得られた血圧測定値は血圧の個人評価の立場12)から,最高血圧、最低血圧別にその平均値をもって個人の血圧水準(以下A22,A25)年齢平均値(以下A27)とし,また最小自乗法によって年齢にたいする血圧の推移を求め,始めて血圧を測定した年齢とその時の最高・最低血圧値(以下 A8,A9)と最後に血圧を測定した年齢とその時の最高・最低血圧値(以下A11,A12)を計算上求めた。また始めの最高・最低血圧値と終わりの最高・最低血圧値の差を計算し,それぞれA30とA31と符号した。
なお測定回数1回の場合はその測定値をもって個人の最高・最低血圧値(A22,A25)とした。
1958年に行われた生活諸条件に関するアンケートの内容と区分は次のようなものであり,それぞれ A13からA21と符号し,無しには5および区分ごとにそれぞれの数値を与えた。
1 冬に室内暖房としてストーブをつけているか,つけている場合は何年になるか。
(いない<いろり暖房>,1-4年,5-9年,10年以上) (A13−5,6,7,8)
2 1日に何回味噌汁がでるか(1回,2回,3回<朝昼晩>) (A14−6,7,8)
3 1回の食事のとき味噌汁を何杯のむか(1杯,2杯,3杯,4杯以上) (A15−6,7,8,9)
4 酒をどのくらい飲むか(飲まない,時々,毎日) (A16−5,6,7)
5 タバコをどのくらいのむか(のまない,1日1-9本,10本以上) (A17−5,6,7)
6 牛乳をどのくらい飲むか(のまない,時々,毎日) (A18−5,6,7)
7 りんごをどのくらい食べるか(たべない,1日に1-2個,3個以上)(A19−5,6,7)
8 1日の食事に魚がどのくらいでるか(1回,2回,3回<朝昼晩>)(A20−6,7,8)
9 1回の食事のときのごはんを何杯たべるか(1-2杯,3-4杯以上) (A21−6,7)
出生年齢別,性別にそれぞれの項目別に平均値の差の検定を行い,また血圧測定回数 5回以上のアンケ−トの欠落の無い例(男 633名,女914名)について,血圧値( A8,A9,A11,A12,A22,A25,A30,A31)を目的変数(Dependent Variables)とし,項目(A13-A21,A27)を説明変数( Independent Variables)として,段階式回帰分析(Stepwise Regression Analysis)を弘前大学情報処理センタ−デ−タ解析システムDAISYによって行った。
3 結果
1957年現在の性・年齢別の最高・最低血圧平均値,標準偏差,また測定開始時と終了時の血圧の推移については表2,3のようであった。
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りんご摂取との関係は表4の通りであった。
段階式回帰分析の標準統計量( Standard Statistics)としての相関係数は表6に示す通りであり,変数減増法(STB)の計算の結果は表7に示す通りであった。
Vaiables A8 A9 A11 A12 A22 A25 A30 A31
(143.9) (80.79) (149.2) (86.90) (146.1) (83.40) (5.237) (6.112)
A13 -0.0566 -0.0191 0.0024 0.0202 -0.0312 -0.0043 0.0675 0.0395
(6.561)
A14 0.0243 -0.0271 0.0086 -0.0081 0.0249 -0.0121 -0.0165 0.0187
(7.572)
A15 -0.0441 -0.0823* -0.0462 0.0076 -0.0559 -0.0593 -0.0094 0.0894*
(7.637)
A16 0.1726** 0.1358** 0.1748** 0.1395** 0.1889** 0.1667** 0.0290 0.0062
(6.201)
A17 -0.0448 -0.1044** -0.0060 0.0157 -0.0342 -0.0521 0.0432 0.1196**
(6.093)
A18 -0.0524 -0.0225 -0.0257 0.0211 -0.0445 0.0044 0.0264 0.0437
(5.392)
A19 -0.1115** -0.0857* -0.1754** -0.1502** -0.1541** -0.1307** -0.0992* -0.0668
(6.125)
A20 0.0109 -0.0033 -0.0591 -0.0926* -0.0241 -0.0448 -0.0885* -0.0904*
(6.897)
A21 -0.0398 -0.1051** -0.0463 -0.0443 -0.0371 -0.0829* -0.0144 0.0596
(6.814)
A27 0.3407** 0.3803** 0.3521** 0.0944* 0.3822** 0.2940** -0.0664 -0.2823
(53.41)
( females N=914 )
Vaiables A8 A9 A11 A12 A22 A25 A30 A31
(136.9) (78.07) (140.0) (81.90) (138.2) (79.62) (3.082) (3.834)
A13 -0.1702** -0.1403** -0.0596 -0.0346 -0.1343** -0.1127** 0.1304** 0.1117**
(6.606)
A14 0.0664* 0.0795* 0.0219 0.0329 0.0482 0.0702* -0.0527 -0.0500
(7.539)
A15 -0.1253** -0.1195** -0.0731* -0.0157 -0.1078** -0.0839* 0.0569 0.1091**
(7.263)
A16 0.1490** 0.1462** 0.1397** 0.1219** 0.1558** 0.1485** 0.0031 -0.0303
(5.083)
A17 0.0962** 0.0958** 0.0154 0.0356 0.0677* 0.0778* -0.0983** -0.0643
(5.007)
A18 -0.0613 -0.0278 -0.0219 0.0175 -0.0502 -0.0110 0.0464 0.0466
(5.244)
A19 -0.0482 -0.0216 -0.0893** -0.0784** -0.0670* -0.0415 -0.0601 -0.0561
(6.063)
A20 -0.0571 -0.0354 -0.0480 -0.0228 -0.0566 -0.0334 0.0062 0.0141
(6.793)
A21 -0.1608** -0.1950** -0.1308** -0.0461 -0.1608** -0.1524** 0.0234 0.1575**
(6.595)
A27 0.4200** 0.4230** 0.4143** 0.1141** 0.4519** 0.3278** 0.0360 -0.3274**
(52.58)
(Level of significant : * p<0.05 ** p<0.01)
(Number in the parenthesis shows the mean of each variable)
Table 7. Finale Results by Stepwise Regression Analysis
Males N=633
A8(143.9) = 83.518 + 5.8124*A16 - 3.2211*A19 + 0.82552*A27
A9(80.79) = 37.027 + 2.6347*A16 + 0.51344*A27
A11(149.2) = 101.40 + 6.5392*A16 - 7.1030*A19 + 0.94963*A27
A12(86.90) = 98.512 + 2.5093*A16 - 3.3817*A19 - 1.8409*A20 + 0.11678*A27
A22(146.1) = 90.711 + 6.0803*A16 - 4.8487*A19 + 0.88693*A27
A25(83.40) = 62.005 + 2.6285*A16 - 2.0969*A19 + 0.33583*A27
A30(5.237) = 47.468 - 3.9039*A19 - 2.6562*A20
A31(6.112) = 53.417 - 2.3542*A19 - 1.7392*A20 - 0.39114*A27
A16(6.201) A19(6.125) A20(6.897) A27(53.41)
VAR. DF F-VAL SIG F MULTIPLE R R SQUARE ADJUSTED R ADJUSTED R SQUARE
A8 3 38.271 ** 0.39288 0.15436 0.38772 0.15032
A9 2 63.014 ** 0.40829 0.16670 0.40503 0.16405
A11 3 44.671 ** 0.41909 0.17564 0.41437 0.17171
A12 4 9.070 ** 0.23370 0.05461 0.22044 0.04859
A22 3 51.892 ** 0.44541 0.19839 0.44110 0.19457
A25 3 30.207 ** 0.35487 0.12593 0.34894 0.12176
A30 2 5.226 ** 0.12774 0.01632 0.11487 0.01320
A31 3 22.226 ** 0.30959 0.09585 0.30255 0.09154
Females N=914
A8(136.9) = -3.7340 - 2.1906*A13 + 6.0935*A16 +17.754*A17 - 2.4927*A18
+ 0.91946*A27
A9(78.07) = 11.417 - 0.81008*A13 + 2.9667*A16 + 8.6729*A17 - 1.5914*A21
+ 0.45630*A27
A11(140.0) = 79.902 + 6.3290*A16 - 4.3121*A19 + 1.0286*A27
A12(81.90) = 65.946 + 4.0574*A16 - 1.7526*A19 + 0.11325*A27
A22(138.2) = 82.853 - 1.4309*A13 + 6.3224*A16 - 2.9426*A19 + 0.96056*A27
A25(79.62) = 48.867 - 0.57040*A13 + 3.5404*A16 + 0.31418*A27
A30(3.082) = 84.741 + 2.0905*A13 - 19.069*A17
A31(3.834) = 18.832 + 0.65799*A13 - 0.36788*A27
A13(6.606) A16(5.083) A17(5.007) A18(5.244) A19(6.063) A21(6.595) A27(52.58)
VAR. DF F-VAL SIG F MULTIPLE R R SQUARE ADJUSTED R ADJUSTED R SQUARE
A8 5 46.395 ** 0.45110 0.20349 0.44621 0.19910
A9 5 45.310 ** 0.44686 0.19968 0.44190 0.19528
A11 3 68.060 ** 0.42808 0.18326 0.42493 0.18056
A12 3 8.967 ** 0.16945 0.02871 0.15972 0.02551
A22 4 64.000 ** 0.46877 0.21974 0.46509 0.21631
A25 3 41.874 ** 0.34828 0.12130 0.34410 0.11840
A30 2 11.926 ** 0.15973 0.02551 0.15289 0.02338
A31 2 57.089 ** 0.33373 0.11137 0.33079 0.10942
(Level of significant : ** p<0.01)
(Number in the parenthesis shows the mean of each variable)
4 考察
日本の東北地方住民の食生活について食塩摂取量についてみると,国際的にみても,また日本の中でみても,多量の食塩が長年に亙って摂取されていたことが明らかにされてきた。
すなわち日本各地で実測された食塩摂取量から東北地方では比較的多量の食塩が摂取されている実状が明きらかにされ13),農民栄養調査(1955年)によって全国平均19.21gが秋田県青森県ではそれぞれ24.28g,18.52gであり14),国民栄養調査から推測概算される量も1966年から71年当時全国では17-18gであるのに東北ブロックでは17-22gであり15),尿Na/K比(mEq)は1956年から1976年にかけて東北地方各地住民で平均6.0で15),その内秋田県民38名の22日間の1名1日平均食塩排泄量は最小12.0g,最大30.4g,平均18.1gであり16),青森県内の対象Oでは3日間連続蓄尿によって食塩15.2g,対象Kでは18.6gが実測され17), 1982年の全国の3歳児の尿検査成績でNaCl/Cr.(g/g)は北日本に高かった18)。また日本人の成人女子の尿中食塩排泄量を1985年に検討した成績によると,ブロック別にみて東北は,また県別にみて秋田県,青森県は全国と比較して有意に高いことが認められ19),青森県において1985年40-69歳の男2572名女2844名の尿 NaCl/Cr.(g/g)はそれぞれ10.18,12.81であり20), 1986年国民栄養調査方式による青森県民の食塩摂取量は15.2gで, 全国より2.1g多かった21)。
このような食生活の中に生まれ育った人々の血圧が高血圧の状況にあることは, 食塩と高血圧との関連についてほとんど反駁できない証拠と考えられ22),また地理的な各種民族の高血圧と食塩との関連についての証拠として考えられるようになった23)。また地球疫学上の立場から日常摂取している食塩とそれぞれの地域人口集団の年齢別血圧水準や分布をみると, 日本の東北地方住民は食塩を多量摂取し, 血圧水準は高く, またその分布も広くなっていることが考えられた24,13)。
脳卒中・高血圧予防の立場から, 日常食生活に多量の食塩を摂取していることは問題であるとする公衆衛生上の立場から, その改善を主とする対策がわれわれの調査対象者についてはとられてきた25,26)が, 食生活中食塩摂取のもとになるみそ汁摂取状況の変貌が観察された27)。また20年を経過した後, 同一人の被検者についての3日間の蓄尿による成績によって, 一日一人あたり1961年の17.0 g から1981の11.9 g に食塩摂取量が減少し, この間の20年間に加齢による血圧の上昇が認められなかったことをすでに報告28)した。今回報告の資料は上記対象者を含むが, 観察期間中にみそ汁の摂取回数(A14)は1958年の3回57%から1975の41%に, 2回は40%から47%に, 1回は3%から12%に変化し, みそ汁摂取杯数(A15)は1-2杯は58%から96%に, 3-4杯以上は42%から4%に変化したことが観察されている。したがって1958年時における食塩摂取に関係するアンケ−トの項目(A14,A15あるいはA21)についてみると観察期間中食塩摂取量が減少する方向に変化していることが考えられるが,その結果これらの項目と血圧との関連を検討した今回の成績では血圧の平均値および推移について有意の関連が認められなかったものと考えられる。
変数減増法による段階式回帰分析による回帰係数の最終結果をみると年齢(A27)と飲酒(A16)のつぎに,りんご摂取状況(A19)が逆相関として認められているが,この結果をどのように考えたらよいであろうか。
血圧状況と年齢および飲酒との関連は有意の順相関が認められたが,東北地方住民は加齢によって血圧水準やその推移が高くなる人口集団であると考えられ、飲酒についてみると男性について1958年飲まないが20%が1975年38%,時々が41%から24%,毎日が39%から38%で,この間酒やたばこをのむ習慣は同一人について殆ど変化しなかったと考えられ、酒を飲むような習慣と血圧との関連があるという結果が示されたと考えられる。
たばこ喫煙の習慣についてみるとも1958年のまないが34%から1975年の40%に,一日1-9本が20% から8%に,一日10本以上が46%から52%で,観察期間中殆ど変化が認められず,たばこ喫煙と血圧との関連は認められなかった。
医療については1958年のアンケ−トには含まれいなかったので今回検討されなかたが,1963年医療有りが25%であったのが,1975年には54%に上昇していた。
われわれは東北地方における脳卒中死亡率の地域差を説明できる要因として青森県に多く生産されるりんごとの関連があることを認め,また住民の生活諸条件との関連で食生活上特徴のあるりんご摂取について検討し,血圧との関連において,りんごのカリウムに注目し,住民の尿の検査からその関連を証明しようと試みた。
今回の成績は横断的疫学調査によって認められたりんごと血圧水準との関連5,7,29),また短期間ではあったが実際にりんごを食することによる血圧に対する影響を観察した実験的疫学研究の成果30,16)をふまえ,長期に追跡した疫学調査によっても,りんご摂取が血圧水準やその推移に影響を及ぼしていることが観察されたと考える。
われわれが人々の血圧をどのように考えたらよいかについて血圧論を述べた12)が,これにしたがって整理してみると,図のように最高血圧の頻度分布は,りんごを食べない人々の血圧は高く分布は広くなるの比べて,りんごをたべる習慣の人々の血圧は低く分布の歪みが少なくなり,最低血圧についても分布のひろがりは差が無いものの,分布の位置がりんごをたべる方が低い方にあることが観察された。年齢・酒はこの逆であることが,すなわち加齢とともに血圧は高い方に,また酒をのまない方から毎日飲む方へ血圧が高くまた分布がひろがることが観察されたが,われわれが1958年に観察した要因に限られるが,今回の検討結果はこれら各種多要因をひとまとめにして計算したものと考えることができる。
りんごの食習慣の調査は調査期間を通じて頻繁には行われなかったので詳細は明らかでないが,一般にりんごが血圧によいのでないかとPRされたので,個人ごとに変化したことが考えられる。1958年についで1963年に行われたアンケ−ト調査によって,前回にひきつづきりんごを一日3個以上食べていると回答した調査開始当初からりんご摂取の習慣のあると考えられる男女100名の血圧は表8のようであった。この血圧状況は表2,3に示されたこの地域住民全体の血圧状況の中で眺めてみるとき,血圧水準は低く,加齢による血圧の上昇は殆ど認められない人々であることがわかる。
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日常食生活において多量の食塩摂取があると考えられる日本の東北地方の3地域において,1954,57,58年から1975年にいたる間,年1-2回測定観察された住民の血圧と1958年に行われたアンケ−ト調査によるみそ汁,ご飯,りんご,魚,ミルクの摂取状況,飲酒,たばこ喫煙の生活諸条件との関連について検討した結果を報告した。
1957年出生コホ−ト別に30歳から60歳代の住民台帳による対象人口の98.7%の男1127名、女1369名計2496名の血圧測定回数平均12.9回の血圧測定値が得られたが,観察期間中の血圧平均値,また最小自乗法によって年齢にたいする血圧の推移を求めて検討の資料とした。 また測定回数5回以上の男633名,女914名の資料について段階式回帰分析によって,最高・最低血圧の水準と推移について検討したが,年齢と飲酒については順の,りんご摂取については逆の相関関係があることが認められた。
本報告の要旨は1989年6月ワシントンで開催された第2回国際予防心臓病会議(World Congress on Preventive Cardiology)で演題(Protective Effect of Apple Eating Habits onHigh Blood Pressure in High Salt Population)で報告された。
1)近藤正二・加藤勝雄:脳縊血の成因に関する衛生学的研究, 西野忠次郎編:脳縊血, p.63,丸善,東京(1948).
2)高橋英次,佐々木直亮,武田壤寿,伊藤弘:高血圧殊に脳卒中の原因に於ける住生活の役割,日本医事新報,1629,27-31(1955).
3)Takahashi,E.,Sasaki,N.,Takeda,J.and Ito,H.: The Geographic Distribution of Cerebral Hemorrhage and Hypertension in Japan, Human Biology,29,139-166(1957).
4)佐々木直亮,武田壤寿,福士襄,三橋禎祥,鵜飼恒,小野淳信,斉藤栄滋,川岸泰成:食塩摂取についての2,3の問題−特に脳卒中及至高血圧症との関係について−,綜合医学,15,101-106(1958).
5)Sasaki,N.:High Blood Pressure and the Salt Intake of the Japanese, Jpn. Heart J.,3,313-324(1962).
6)佐々木直亮:脳卒中頻度の地方差と食習慣「食塩過剰摂取説の批判(福田)」の批判,日本医事新報,1955,10-12(1961).
7)佐々木直亮:東北地方農民の血圧と尿所見特にNa/K比との関係について,医学と生物学,39,182-187(1956).
8)佐々木直亮:東北地方住民の血圧の推移について 第3報 個人の血圧の推移,弘前医学,36,402-416(1984).
9)佐々木直亮:血圧水準と脳血管疾患による死亡についての追跡的疫学調査 第4報 東北地方住民について, 弘前医学,31,788-804(1979).
10)佐々木直亮:東北地方住民の血圧の集団的観察, 日本公衆衛生雑誌,6,496-503(1959).
11)高橋英次,佐々木直亮,武田壤寿,伊藤弘,跡部汗,高松功,秋山有:東北地方住民の血圧 第1報昭和29年度に於ける測定成績, 弘前医学,11,704-709(1960).
12)佐々木直亮:血圧論, 弘前医学,14,331-349(1963).
13)佐々木直亮:疫学面よりみた食塩と高血圧, 最新医学,26,2270-2279(1971).
14)佐々木直亮,武田壤寿,福士襄,三橋禎祥,土方恒省,福士正典,石山隆一: わが国の脳卒中死亡率の地域差と関連のある栄養因子について−農民栄養調査成績による分析−, 日本公衆衛生雑誌,7,1137-1143(1960).
15)佐々木直亮,菊地亮也:食塩と栄養, p.86,p.69,第一出版,東京(1680).
16)三橋禎祥:秋田県農民の血圧の研究 第2編 秋田県農民の血圧に及ぼすりんご摂取の影響, 弘前医学,12,57-74(1960).
17)高橋政雄: 高血圧の疫学的研究 第2報 尿Na/K比と血圧との関係について, 弘前医学,19,394-398(1967).
18)竹森幸一,仁平將,三上聖治,神裕,佐々木直亮: 濾紙法による地域ブロック別および都道府県別食塩摂取状況の調査, 日本公衆衛生雑誌,30,589-598(1983).
19)竹森幸一,仁平將,三上聖治,佐々木直亮:日本人成人(中年女子)の尿中食塩およびカリウム排泄量の地域分布と血圧値との関係,民族衛生,54,131-142(1988)
20)竹森幸一,仁平將,三上聖治,佐々木直亮,大高道也:青森県における食塩およびカリウム摂取状況と血圧値との関連,民族衛生,53,140-153(1987).
21)青森県環境保健部:県民食生活調査報告書(昭和61年調査結果)(1987).
22)Guyton,A.C.:Arterial Pressure and Hypertension, W.B.Saunders Company, Philadelphyia,p.464(1980).
23)Dahl,L.K.:Possible role of salt intake in the deveropment of essential hypertension, In Essential Hypertension (eds.Bock & Cottier), Springer-Verlag, Berlin(1960).
24)Sasaki,N.: Comments, In Hypertension and Stroke Control in the Community (eds.Hatano.S.,Shigematsu,I.,Strasser,T.), WHO,Geneva,p.106-107(1976).
25)佐々木直亮:東北一農村における高血圧対策の評価,公衆衛生,28,155-162(1964).
26)佐々木直亮:東北一農村における高血圧対策の評価・補遺,日本公衆衛生雑誌,14,1209-1222(1967).
27)Sasaki,N.: Epidemiological studieson hypertension in northeast Japan, In Epidemiology of Arterial Blood Pressure (eds.Kesteloot,H.& Joossens,J.V.),p.367-377,Martinus Nijhoff,The Hague(1980).
28)佐々木直亮,福士襄,高橋政雄,東北地方農民の食塩と血圧水準の推移についての縦断的疫学調査, 弘前医学,35,232-242(1983).
29)佐々木直亮,武田壤寿,福士襄,土方恒省,石山隆一,福士正典,小宮山定澄,木村新三,蓮沼正明,高橋政雄:東北地方の中年者の血圧と2,3の生活条件との関係について,弘前医学,15,368-375(1963).
30)佐々木直亮,三橋禎祥,福士襄:秋田県農民の血圧におよぼすりんご摂取の影響,医学と生物学,51,103-105(1959).