前章に紹介した座談会で、弘前大学小児科の荒川雅男は次ぎのように述べている。
「いま北大の永井教授がその(りんごの)実験をやっています。うちの方では青森県工業試験場の濃縮ジュ−スの医学的効果を試してみましたが、赤ん坊の栄養としてはもちろん、母乳よりも勝ることが分かりました。人工栄養として乳酸を加えると消化不良になりません。りんご酸がよろしいのですが、酸性乳として赤ん坊にどういう影響があるかを調べました。いいあんばいに双生児の患者がありましたので、りんご酸性乳を与えた乳児と与えない乳児の比較の試験をしてみたわけです。粉乳8%、りんごジュ−ス5%、砂糖5%の酸性乳を一方の乳児に与えましたが、実によく飲みました。丸2カ月間、退院するまでは尿中窒素の排泄も少なく、従ってそれだけ肉になり、体重の増加もよいという結果が出ています。また下痢も少なく、もう一つヘモグロビン(血色素)の増加で顔の色がよくなりました。これらの結果を見てもりんご果汁の酸性乳は下痢防止とヘモグロビンの増加に使えることがわかったのです」
波多江「何%という配合は家庭でもできましょうか」
荒川「ちゃんと目盛りビンがありますから簡単にできます。今のお母さんたちはだれでもやれますよ(笑い)」
荒川雅男らが青森県にあった「シビ・ガッチャキ」というビタミンB2の欠乏を主とする栄養失調症の研究に没頭していた頃の研究であった。
前述の下瀬川薫の研究も貧血回復に及ぼす影響も検討して、濃縮ジュ−スの方が清澄のものより効果的であったと報告している。
りんご果汁が貧血回復に及ぼす影響についての研究は外国では1920年代にさかのぼるが、フイップル(G.H.Whipple)ら1)の研究がある。
これは出血性貧血犬を使って、ヘモグロビン生成に最も効果があるものは何かを検討した一連の研究の一つに、りんごが入っている。
そしてりんごの効果についての結論は、新鮮なもの、また乾燥したものでも、かなりの変動はあるものの2週間で13-40gのヘモグロビンの増加があり、ぶどうや干しぶどうと同等ということであった。
1)Robscheit-Robbins,F.S.and G.H.Whipple:Am.J.Physiology,80,400,1927.