りんごの中には「ペクチン」があるとよくいわれる。
ペクチンとは「果実中に含まれる多糖類、果実の成熟時ジェリ−化を促す」と広辞苑に書いてある。
多糖類は栄養素の1つ、糖類の中の一種である。
糖類は糖及びその重合体の総称で、生物体の生命現象、ことにエネルギ−を出す物質として、また細胞の構成成分として重要な物質である。この糖質は単糖類、二糖類、多糖類に分類され、多糖類は単糖類が多数集まって水を失ってできた高分子の化合物で、2種以上の単糖類を生じるものを複合多糖類と呼び、そこにペクチンが含まれる。
りんごの中には約0.2%のペクチンが含まれており、その主成分はペクチン酸で、分解するとテトラガラクトロン酸、アラビノ−ズ及びガラクト−スとなる。
りんごについての成分分析表をみると1)、全糖、還元糖、非還元糖(含可溶性ペクチン)、全ペクチン、可溶性ペクチンの測定値が示されているのは、以上述べた糖質の化学分析が行われてきたことによると思われる。
果実中のペクチンは未熟のときは水に不溶であるが、熟するにつれて可溶性になる。繊維と共に存在し、煮ると水に溶け出し、ゼリ−化する物質があり、砂糖を加えてジャムなどにできる2)。
ペクチンに関する調理科学的研究として、果実ペクチンの化学的性状並びに物性についての研究報告がある3)が、ペクチンについての医学的効果についてどのような研究が行われただろうか。
最近話題になってきた食物繊維との関連は次ぎに述べるとし、昔から行われてきた研究について紹介しよう。
ペクチンは重金属中毒に対するよい解毒剤で、重金属の毒力を最小限にすることが昔から知られていた。
りんごを食べさせたウサギでは、鉛や砒素の毒性が弱くなているという研究報告もある。
弘前大学薬理学教室の二宮和郎4,5)は、ペクチンの致死量についてdd系のマウスやトノサマガエルを使ってLD50(半数の動物が死ぬ量)を求め、体重10g当たり、それぞれ48.5mg,31.0mgと報告した。そして、ストリヒニンによるカエルの痙攣が、ペクチンの経口投与及び皮下注射どちらの場合でも、発現時間を延ばすことができ、またg-ストロファンチン及びクロロフォルム中毒、アルコ−ル麻痺が軽くなることを確かめ、これはペクチンがそのまま効いたのか、あるいは分解して吸収され、そのあと肝臓の解毒能を高めるのではないかと考えた。
また金子善郎6)は、ネコ及びウサギの動物実験で、塩化アドレナリンとかノルアドレナリンの血圧作用薬と一緒にペクチンを皮下並びに筋肉注射をすると、薬の作用を弱めたことを報告したが、これは薬物の吸収を抑制・遅延させるためであろうと考えた。
1)尾崎準一:果汁ハンドブック、高陽書院、東京、1955.
2)角田悦子、田伏千代子:東北女子大紀要,15,36,1976.
3)川端晶子:家政学雑誌,36,561,1985.
4)二宮和郎、他:弘前医学,9,438,1958.
5)二宮和郎:弘前医学,10,635,1959.
6)金子善郎:弘前医学,11,200,1960.