青森県津軽地方農民の生活実態調査が昭和22年(1947年)頃から弘前大学衛生学教室を中心に行われたが1)、その中で四季における農業労働、疲労についての2,3)、特にりんご果樹労働における袋かけ作業の疲労測定成績が4)、また、りんご園に新しく使用されるようになった有機リン製剤の散布の実態と中毒予防について報告5)された。
さらに昭和34年以降、公衆衛生学教室によって東北積雪地帯農民の労働と保健に関する系統的研究が展開され6)、果樹栽培地帯の労働時間、労作強度、消費エネルギ−や農繁期における疲労が検討され7)、りんご栽培地帯農民の体力と老化状態についての疫学的研究が報告された8)。また、りんご栽培における病害虫の共同防除作業従事者の生体負担について検討され9,10)、りんご栽培農民の労働負担の変化と栄養保持状態、健康状態の季節労働11)、冬期における気候適応生活12)、職業性りんご花粉症13)、また農業の危害防止に関する研究として、農薬被曝量と血中有機リン農薬の動態、病害虫防除用衣服の改良に関する研究14−18)や、りんご栽培における脚立作業の人間工学的研究とりんご栽培農民の労働科学的研究が行われた19)。さらに、りんご栽培の作業服についての研究も行われた20)。
これら弘前大学公衆衛生学教室で行われた一連の研究をまとめて、昭和63年の日本農村医学会総会において臼谷三郎による「リンゴ栽培の労働科学」の宿題報告21)がなされた。
「リンゴ栽培は、病害虫防除作業を除くと、大半は脚立を用いて立位、上肢挙上姿勢で行う手先作業であり、動きの少ない静的労作の労働として捉えることができる。
寒冷、積雪期の整枝・剪定に始まり、以後、時期継続的に展開される各種リンゴ作業の労働強度(RMR)は2以下の軽労作が多い」ことを明らかにし、これらりんご栽培の特徴から、その生体負担改善への視点を述べた。
さらに、りんご栽培作業による健康異常とその対策について、すなわち、職業性りんご花粉症とその対策、脚立作業による健康異常とその対策、農薬曝露のい現状とその対策、収穫作業とその合理化対策について述べた。
終わりに、「農産物自由化の波に、農業の先行き不安感は増強されるばかりである。活力のある農村への再生を図るために、高生産性農業の確立が国際化に対応するために重要な課題となっている。これを解決するための医学サイドのアプロ−チとしては、農民と連帯した農村医学の展開が不可欠であり、その本質には労働科学的視点に立った地域保健活動としての農村医学が求められている」ことを力説して結びとしている。
1)高橋英次:弘前医学,1(1),65,1950.
2)渥美浩:弘前医学,1(3),64,1950.
3)高橋英次,他.:弘前医学,3,127,1952.
4)高橋英次,他.:弘前医学,4,322,1953.
5)佐々木直亮,他.:日本公衆衛生雑誌,1,400,1954.
6)中村正,他.:日本公衆衛生雑誌,11,1,1964.
7)中村正,他.:弘前医学,17,168,1965.
8)中村正,他,:弘前医学,16,373,1964.
9)臼谷三郎,他.:弘前医学,27,356,1975.
10)臼谷三郎,他.:弘前医学,27,529,1975.
11)臼谷三郎,他.:弘前医学,30,130,1978.
12)臼谷三郎,他.:弘前医学,31,523,1979.
13)沢田幸正:産業医学,20,382,1978.
14)臼谷三郎,他.:日本農村医学雑誌,27,79,1978.
15)臼谷三郎,他.:日本農村医学雑誌,27,181,1978.
16)高松泰仁:弘前医学,32,104,1980.
17)西山邦隆:日本農村医学雑誌,30,1034,1982.
18)西山邦隆:日本農村医学雑誌,31,59,1982.
19)江武瑛:日本農村医学雑誌,32,1,1983.
20)上田百合子:東北女子大紀要,15,88,1976.
21)臼谷三郎:日本農村医学雑誌,37,1031,1989.