22 りんごの残留農薬

 

 りんご生産の際に多くの農薬が用いられているので、食品として考えた場合、農薬による汚染が心配される。

 この点に関して、臼谷三郎は次ぎにような見解を述べた1)。

 「われわれが摂取する残留農薬は、原材料の残留物、洗浄による除去率、調理・加工時の変化などの多寡によって決まる。さらに人体への影響ということになると、その毒性と摂取量が問題になる。

 この点に関し、いまだ十分な系統的な研究はないが、果実に残留する農薬は、土壌から吸収されるものはわずかで、浸透性農薬でない限り、散布農薬の表面付着や表皮ワックス層への固着が主で、りんごに対するダイホルタンでは97%が果皮内に分布しているので、皮の利用に疑問がでるのは当然と思われるが、しかし安全性の見地から、適正の農薬を、安全使用に基づいて使用することが法で定められており、最近の全国の試験研究機関で実施された残留農薬調査成績をみると、表皮部分については食品衛生上の残留農薬許容基準を若干上回るものもあるが、果肉部でははるかに低値である。

 また農薬の水洗効果をみると、中性洗剤を水1リッタ−に1滴入れたものに、時々攪拌しながら10分間浸漬し、スポンジで軽くブラッシングした上、流水中で中性洗剤を完全に洗浄する方法で、15-85%除去されるから、中性洗剤を利用する方が水や温水などよりも除去率は高いが、水洗いを完全にしないと、中性洗剤の害を受けるおそれがあるから注意しなければばらばい。

 さらにジャム、マ−マレ−ドへの調理過程には加熱が必須であるが、この際農薬の酸化、分解し、あるいは水蒸気とともに揮発される。砂糖づけのように果肉を用いる場合にも洗浄さえ念入りに行えば残留農薬は低減する。

 近年、有機塩素系や有機水銀などの作物残留性の、しかも微量であっても体に蓄積し、慢性毒性が考慮される農薬の使用は禁止され、あるいはこれに準じる砒酸鉛などは病害虫防除暦から除外されているから、これらに対する危険性は軽減した。

 また、実際にジャムやマ−マレ−ドの摂取量はわずかである。

 以上の諸点を総合すると、りんご並びにみかんの皮の利用法などテレビで教えているが、農薬による汚染の心配はないか、との設問のような危険性は少ないと判断される。

 砂糖づけのような果皮を用いる場合にも、洗浄さえ念入りに行えば残留農薬は前述のように低減するから、自己防衛としてこれだけは十分に行って欲しい。それでもなお心配な方は、果皮を利用しないか、無農薬栽培の果実を用いればよいということを付言しておく」

文献

1)臼谷三郎:日本医事新報,2647,136,1975.

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