上を向いて 歩こう
あの坂本九ちゃんが「上を向いて歩こう」と歌ったとき、テレビのカメラがズ−ムアップして彼のニキビだらけの顔を写し出した時のことが忘れられない。丁度宇宙ロケットがとんだ頃で、それは月面をイメ−ジしたからであった。
この歌は「すきやきソング」として世界中に流行したが、その頃アメリカでは「心臓病の予防」についての研究がすすみ、肥満とか、食生活の中の脂肪の取りすぎとか、タバコ喫煙とかが「危険因子」と考えられ始め、また運動不足も指摘されるようになった。
自動車の中で座って神経をつかう運転手よりバスの車掌さんの方が心臓病が少ないとか、大きな鞄を肩に一軒一軒よく歩くアメリカの郵便配達人は心臓病が少ないとか云われた。
ホワイト博士は自転車にのり、歩く先生で有名であったが、そのあとに「ジョギング」が世界の流行になった。
カ−タ−大統領が来日した時もアメリカ大使館のそばでジョギングをしていた姿が報道された。またわれわれがホテル・ニュ−オ−タニを全部借り切って第八回の世界心臓学会を開催したときも、朝早くホテルの周りをジョッギングする外国人をよく見かけた。
ところがジョッギングを推奨していた人が駆け足の途中急死するという事件があって、ただ走ればよいということではないと考えられようになった。
人さまざまである。普段運動している人そうでない人、若い人年とった人、病気のある人ない人さまざまである。自分の体がどうなっているのか、自分でやれる運動の程度はどの位なのか。 筋肉運動のために必要な酸素をどれだけ呼吸で取り入れ、体全体に運べるかということである。そのために呼吸をし、心臓が働く。
厚生省は健康づくりのためのちょうどよい運動量として「運動所要量」を発表した。健康づくりのためには、強い運動が良いということではない。長ければ長い方がよいというものでもない。一回で十分以上は継続した運動をし、、一日二十分以上は運動し、毎日行うことが好ましいという。策定委員の一人進藤宗洋教授の表現によれば「しかめっつらペ−ス」でなくゆとりのある「ニコニコペ−ス」で運動をということである。苦しくなってしかめっつらをし脈が早くなってはあはあいうようではいけないという。オリンピックで金メタルをとれれば死んでもよいという目標なら別である。
長生きの秘けつに「レギュラ−・エックササイズ」というのがある。いつも規則的に運動をつづける」ということである。なにか毎日運動をしろということである。
「寝足」という言葉がある。病気になって床についてしばらく経つと、足が細くなってしまうことである。これが寝足である。心臓が悪いと云われた人も、じっとしていろということではない。心臓もそれなりの仕事を毎日やらなければ、最小限血液を体に循環させるだけの能力しか持たない弱い心臓になってしまう。
宇宙船の中で一年にもわたって長期に重力のない生活を送った人にとって一番問題だったことは、人間として重い頭を持ち上げる必要もなく歩く事もなっかので、彼らが「宇宙足」になってしまったと伝えられている。人間の体には骨と筋肉があって重い体を支えているのだが、宇宙では無重量でその必要がないから、どんどんカルシウムが骨から尿に出ていってしまったという。だから最近はあの狭い宇宙船の中でせっせと運動している。
二本足人間らしく頭を持ち上げてで立ち、歩くことが必要なのだ。
「上を向いて歩こう」