”オ−テル”

 

 ”オ−テル”をつくるとしたら人が大勢ゆききする空港とか、タ−ミナルとかセントラルの停車場のようなところがよい。

 目につくような大きな広告の下へゆくと、空部屋と使用中の部屋が一目瞭然である。空部屋にはキ−がないからである。全部キ−がなかったら、あきらめてホテル案内所へ行くより仕方がない。硬貨を部屋代とキ−デポに相当する一定額だけ入れると、キ−がとれる。キ−を手にした瞬間から、その部屋はあなたのものである。お札を硬貨に替える機械はもう実用化しているから、両替に人手はいらない。

 案内図に従って、自分の部屋に行けばよい。オ−トマチックのエレベ−タ−で部屋のある階まで行くと気分がでる。そのときからすべて自動的なのである。

 部屋には、ベット、洗面器、シャワ−(バス)、便器があり、洋服かけ、タオル、石鹸、紙がそなえつけられている。ベットにはきれいなシ−ツとまくらが、あなたを待っている。ラジオ、TVはいらないだろう。電話の用事にある人もいようからピンク電話を用意する。

 勿論、エヤコン、外からの音はなく、外に音がもれることもない。パスポ−トをみせ、住所、氏名を記入する必要もなく、ことばをかわす必要もない。全くのオ−トマチック・ホテル、略して”オ−テル”なのである。

 キ−をとった時から時刻が記録される。一定時間たつと、自動的にベルでさいそくされる。つづけて用いたいときは、又お金を入れなおせばよい。キ−ホルダ−にキ−をもどすと、キ−デポのお金がかえってくる。そして只今掃除中のサインが出て、掃除がすむまでキ−はとれない。

 ざっと”オ−テル”はこんな調子である。キ−をもちにげする人はいないかって?キ−デポのお金とキ−をとりかえる人もいないだろう。

 世界中こんなホテルはなかったから、私が名付親になろう。

(日本医事新報,2228,83,昭42.1.7.)

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