乳児「ダイヤモンド」論

 

  おとなりの岩手県の努力に先をこされたかっこうになって、日本一乳児死亡率が高いということになった青森県ではあるが、、医師会が提唱して始められた「あかちゃん会議」も第4回を迎え、今年は県内の僻地を多くかかえている下北半島のむつ市で開かれた。

 市民集会所の2階が落ちんばかりの盛会の上に、医師会の代表だけでなく、小児保健研究会、母性保護医協会、母性衛生学会、看護協会の保健婦・助産婦の各代表がでて、お母さん方の発言をまじえて、公衆衛生課長が司会をするといった総合された会になったことは、公衆衛生の歩みをみるようであった。

 このような地方でも、「子持ちの看護婦には保育所を!」といった声が強くでるほどで、世の中のうごきを反映した発言は多かったが、それでも、「物いわぬ嫁」の出席者はほとんどなく、「とり上げ婆さん」による無資格分娩の様子や、不潔な自宅分娩のため「すそかぜ」(産褥熱)に発熱する母親の実情を訴える土地の助産婦さんからの発言もあった。

 都会化し、主張の強いところに次々と手がうたれるような世の中で、一体誰がとりのこされた人達の世話をしなければならないのであろうか。医師はますます都会に集中し、おきわすれていく僻地ではある。

 それでいて、中学生が卒業するころともなれば、彼ら「金の卵」に、あの手この手がさしのべられるのである。中学生が「金の卵」なら、これからの日本で、今の乳児は「ダイヤモンド」ではないだろうか。

 ところが、青森県内で、これから12月まで、300以上の「ダイヤモンド」がうしなわれることが予想されるのである。ああ!

(日本医事新報,2362,65,昭44.8.2.)

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