最近女の人の平均寿命が70歳の壁を破ったという。おめでたい話だ。
人生わずか50年といったのは今は昔、人生70年という。こんな記事を見て、自分もその仲間入りをして、20年長生きできると思っている人がいたら、平均寿命という統計のからくりを知らない、これまたおめでたい人だ。
平均寿命。正しくは零歳の人の平均余命という。昭和37年には男66.2歳、女71.0歳になった。だがこの数字、いま生まれたばかりの赤ちゃんが、現在あらゆる人生の危険を乗り越えて、生き残ったとしたら、その平均が70歳になるという計算からなりたっている。
丈夫な赤ちゃんとして生まれ、離乳期も失敗せず、肺炎にもならず、よちよち歩くころになって、自動車にもはねとばされず、海や川でおぼれず、山で遭難せず、自殺もせず、肺病やみにならず、「あたら」ず、ガンにならず、そして生き残ってゆく。これこそほんとうの長生きというもの。
平均寿命とは、それらの全部の危険が計算されたうえでの数字。青森県民の平均寿命が、全国とくらべて, 1・2年短いと計算されているのをみれば、長生きをはばむ要因をいろいろと考えなくてはならない。
40歳の人の平均余命は30年と少し。明治・大正・昭和とほんの数年しか長生きになっていない。40歳を過ぎてからの生命の壁として脳卒中・心臓病・ガンについて、どうしてよいかを知っていること、良いことを実行すること、これがきわめて具体的な長生きのひけつになる。
「近頃の若い者は、衛生、衛生といて、消極的だ。自分などは川の水をそのまま飲んでも、下痢一つしない。このとおり長生きしてきた。どうだ」とは、ある村長さんの話。
「あなたの小さいときの友達で、いま何人生き残って働いていますか?」と。
「う−ん。あれも肺病で死んだ。彼もあたった。」と、指折り数えた村長さん、しばらく昔をしのぶような顔つきになった。
「あなたは本当に幸福な人ですね。あなたのかげに何万人という命がかくされているのです」
乳児死亡率全国第二位、結核や赤痢の患者の多い、60歳前で毎年500人も「あたって」亡くなっているこの青森県。この失われた命はあまりにも貴重。これを考えないようでは、村長さんとはいえません。
医学はいまや治療医学だけの時代ではない。予防医学の時代、いやもう一つ進んでもっと総合された医学の恩恵を受けられるよう、われわれは要求してよい時代といえる。医学はそれに答えてくれる。
「あたり」を例にとろう。第一に一般的な健康増進を考える必要がある。「あたる」前の高血圧にならぬための工夫、それには良い食生活を考えなければならない。第二に特殊予防。高血圧・脳卒中に特効薬はない。注射一本、薬一服でなおせる病気と思っては間違い。予防注射で防げる病気ではない。第三の早期発見・即刻治療が唯一のよりどころと知らなければならない。たばこを吸って肺ガンを心配するかわりに、お酒を飲んで胃ガンを心配する代わりに、半年に一度、胸や胃のレントゲン検査を受けるか、受けないかが命の分かれ目と知らなければならない。不正出血があれば、直ちに婦人科のお医者さんへ、乳房にしこりがあれば、直ちに外科のお医者さんへ。行くか行かぬかが命の分かれ目といったところ。第四の病気の後遺症の防止。「あたって」寝ている人に床ずれをおこさせても困る。そして、手や足や口をなんとかきかせるようにしたいリハビリテ−シヨンと、今や総合的医療を行う時代となった。
村や町や、あなた自身の健康の水準をあげるために、あなたはいま何をしています? それを具体的に知り、実行してゆくこと、それが長生きの秘訣になるのである。