日本人の寿命は戦後短くなった!

 

 ミスプリントではない。

 日本人の寿命が、戦後急激にのび、女子では70歳の壁をやぶった。これには乳児死亡、結核死亡の減少あずかっている。これは世の中の常識であろう。そしてどこでも引用される文句だ。

 そこで寿命が短くなったといおうとする根拠は何が。

 一般にいわれている寿命とは、生まれたばかりの子供が、今後平均して何年生きられるかを示す数値であらわされる。そして計算の出発点を出生においている。生命の誕生の時期を出発点においていない。ここに問題がある。

 寿命の計算の出発点を生命の誕生の時期においたら結果はどうなるだろう。実際には乳児の死亡すら十分に把握されていない国々がある位だから、資料を得ることはなかなか困難だ。しかし寿命を考えるとき、その出発点を生命誕生におくのは当然のことといえる。

 とりあえず、死産を考えに入れてみよう。日本では妊娠4か月以後の死児の出産を死産という。そのうち自然死産は戦前戦後をとわず大差がない。違うのは戦後の人工死産の急激な上昇である。妊娠4か月以前の資料として、流産の資料はないが、人工妊娠中絶は参考になる。

 というわけで、日本の寿命を、生命の誕生を出発点として計算したら、戦後明らかに短くなったといえる。

 この話、実は私のオリジナルではない。ある日テレビをみていてうかんだ考えだ。

 問題を正しくみつめる上に大切な考え方といえよう。

(医学界新聞,621,4,昭40.1.4.)

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