ある大学受験案内の雑誌に「弘前大学医学部には、循環器・高血圧・ガンの研究で権威者が多く、とくに脳卒中研究の権威佐々木教授が有名」と書いてあった。
もう10年近くも前のことなのだが、脳卒中や高血圧の予防にりんごが良いのではないか、との疫学的研究からの”clue”(手がかり)を発表したとき、全国的にかなりジャ−ナリズムをにぎわしたこともあって、こんな記事が書かれたのであろう。
大学の看板教授にされたことは当の本人にとってみれば至っておもはゆく、またいっそう責任を感ずることになったのである。
この東北地方には昔から”あたり”(脳卒中)が多く、高血圧も子供の時から多い。いわば、脳卒中や高血圧の本場で研究をやっているのであって、健康問題を生活との接点でとらえてゆこうとする衛生学の本筋にのっての見方からでた結果なのである。この東北地方にあたりや高血圧が多いのは、昔からのこの地方での生活、冬は世界一寒い生活をし、食生活は世界一食塩をとりすぎている、といったことによるのではないかを科学的に証明し、いや証明しつつあるといったところなのである。今年の9月にロンドンで開催される第6回世界心臓病会議での発表の招待状が来たところをみると、東洋のかたすみの日本の、またその東北の小さな研究に、目をむけている人がいるのだろう。
食塩は人間の栄養素として必須物には違いない。しかし人間のみが”the salt in the diet”に満足することなく、人間の知恵によって”the salt added to the diet”を食生活の中にとり入れてきたことは、どういう意味をもっているのであろう。それを知るためには数千人の人間の生活の歴史にさかのぼらなければならない。そしてこの地球上に、ほとんど食塩をとらないで生活している人たちから、外国人にはとても信じられないような沢山の量の食塩をとっているこの東北地方の人たちまでいるのである。そして日本人の、東北人の血圧の状態が注目されてきたのだと考えられるのである。
われわれはなれすぎているのだ。人間が生理的に必要とする食塩の量は1日5g以下と考えられるのに、所要量は1日1人15gであるといった常識がまかり通っているのがこの日本なのである。
食品添加物としての食塩は”告発”されなければならない。
”告発”といったドギツイ表現も、大学紛争に日夜会議にいためつけられた頭からの発想なのであろう。