弘前に生まれ育った人は、ここの冬を、冬の生活をどのように考えているのであろか。とくに”健康”とのむすびつきにおいて。
一般的にいえば、自分が生まれ育った生活環境のことは、それが”自然”であるが故に、ほとんど意識されないのが普通である。
東洋医学は人間と自然との調和を考え、その中に健康に生きることを考えてきたようだ。西洋医学はヒポクラテスに代表されるように、人間の自然治癒力を認めた上ではあるが、人々の住むところの空気・土地・水を考え、人々の健康をよく観察し、記録し、考察し、医術を体系化してきた。現代の医学は歴史的に西洋医学の流れをくんでいる。
日本国中から弘前に人が来るようになった。いや国際的にみても色々な土地に生まれ育った人が、弘前に住むようになった。そのような人たちが、この弘前の生活をみて、とくに冬の生活について何を感じるのであろうか。はじめに何を感じたか、一人一人記録に残しておきたいものである。
東京生れ、東京育ちの者が、ここ弘前にすむようになって、27年もたってしまった。しかし、弘前にきたての頃の印象は忘れられない。そして健康との結びつきを感じとった一つ一つの問題に学問的に接近したのが私の研究歴である。
大分前、NHKの放送で対談したとき、次のような相手の言葉ではじまった。
「弘前の駅へ降りまして、まず感じましたことは、非常に寒くて、足元から寒さがじわじわはい上がってくるような」と。
「ああ、こういうところだったら高血圧が多いのも無理ないな」って気がした方との”高血圧風土記”という健康百話の番組だった。
このような外気温の寒さより、生活環境における温度環境を問題にして、脳卒中・高血圧の予防における住生活の意義が、はじめてこの土地での成績をもとに論じたのは25年前のことだった。
住生活における温度環境はこのところ随分良くなった。日本の、又東北地方の特徴の一つだった冬の脳卒中や高血圧が多いことにも、変化がみられてきた。20年もの間おいつづけてきた弘前近郊の農村では、脳卒中の発生や死亡が冬多いという現象がみられなくなった。
冬の室内の温度条件をととのえると、まず冬の生活はなくなる。実際に何十年も前にそのことをなしとげたアメリカでは、冬血圧が上がることはなかったし、弘前よりもっと寒い土地でありながら、冬の下着は夏と同じなのだ。
しかし、基本的に問題となることは、この冬寒い土地に、健康で生活するためには、地域に、家庭に、そのために必要なエネルギ−をどこからもちこむかということである。それがなければ、青森での文化の花はさかないだろう。