人々と生活と

 

 第49回日本民族衛生学会総会が弘前で開催されることになった記念に、「人々と生活と」と題した写真集をつくって参加された方々にお土産にさしあげた。

 この写真集の反響は自分でもおどろくばかりで、写真のもつ人にうったえる力の強さをあらためて認識したしだいである。

 ちょっと面白いと思ったのは、「人々と生活と」と題をつけたのに、半分ぐらいの方は「人々と生活」ととらえていたことであった。最近はやりのコピ−ライタ−的に「と」をつけたのであったが。

 ”懐かしい”という方はとても多かった。昔の生活を知り体験したことのある方が懐かしく思うのは自然だと思う。

 ”拝見して東北の生活の一端をのぞくことが出来ました。民俗学的にも貴重な資料として永く残されることと思います。スト−ブのある教授室に、疫学の原点も、感銘をうけました。お世辞にも恵まれたとは申せぬ環境で、着々と成果を挙げられた貴兄の努力に対して、喝采を送り尊敬を捧げる次第です”は、ちかく国際生命保険医学界をやられる平尾正治先生。

 ”息もつかずに拝見しました。立派な記録であり、研究である上に、芸術としても立派なものと愚考し心から敬意を表します”は、先日、勲二等をもらわれ、自らも立派な写真集を出された松永藤雄先生。

 文化勲章の高橋信次先生からは”この様な本は待望しながら手に入りませんでした”と。

 そして、同級生の山形操六君は”幼稚舎育ちの生粋のKOボ−イが東北の地に根をはやして住民の生活を観察した結果の集大成、感激しながら拝見しました”と書いてよこした。そして写真の方で有名な松浦鉄也君は”どのイメ−ジも意味がある”との解説に同感の意を表してくれた。

 ”今回写真集を拝見させていただいて先生の学者としての本質に接しさせていただいたような気がいたします。津軽の風土、人々、生活がどの写真にもにじみ出ており、これはカメラアングルからのみ来るものではなく、撮る人間の問題意識が形を変えてそこに写しだされるものであろうと感じました”とは、新しい卒業生の桜井裕君からのものであった。

 きわめつけは、定年の前には十分余裕をもって準備しておかなければいけないよ、といつも言ってくださた北博正先輩からの”見事な引退興行と感心しています”であった。

(日本医事新報,3168,66,昭60.1.12.)

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