専門課程へ進学した諸君へ

 

 去る3月23日の朝のテレビに放映された一寸した会話が、私にとっては印象的であったので、このことを諸君につたえておきたいと思う。

 それは相撲の春場所で技能賞をとった巨砲(おおづつ)に対してのインタ−ビユ−の場面であった。

 ”おめでとうございます。親方があなたの成績に90点をつけたそうですが、どう思いますか”

 このあとの巨砲の言葉が頭にのこっているのである。

 ”あと10点ある”と。

 これが若い人の考え方かもしれない。ごく普通のことかもしれない。

 しかし、60点とれば留年はせず、90点ならたいしたものだと思う人も多いのではないか。

 医師という職業は、一寸のミスもゆるされない職業である。その時その時での誠心誠意の努力をもって実践する。これが医師となる者のつとめであろう。

 こんなことを感じたので、丁度その日行われた卒業式での専4生へのはなむけの言葉として贈ったのだ。そして今、同じ言葉を諸君にも贈りたい。

 解剖学をはじめ、専門課程の教科の内容は”記憶”にたよることが多いと思う。これは努力である。100%おぼえるものは覚えてしまえ。若い時はそれが出来ると思う。

 又どの教科も必須で、どれもゆるがせにできないものだ。出席100%、これが必要だ、これも努力である。

 記憶のものが多いとしても、そのような医学の言葉が、いつ、どんな学問的背景をもってできたのかを考え、理解することが、よい記憶につながるものだと思う。

 又将来の医学の創造にも、手をかす準備はしておいてもらいたい。今迄の医学が進んできたように、将来も進むに違いない。それは諸君の手にゆだねられている。そのためには、記憶とは別の、何事に対しても疑問をもつことから始まる。これは国試へ向けての予備校的勉強とは全く違うものだと思う。頭の良い諸君は、この両方のつかいわけはできるものだと思う。

 そして、疑問を失わず、何十年もあたためて、そだててもらいたい。その疑問は新しい発展としてすぐ花さくこともある。数十年後に花さくこともあるものだと思う。歴史はそれを示している。( 56.4.5.)

(専一スペシヤルPAMPHLET for M1 昭56.4.26.)

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