Civilization is saltization

 

 「文明化とは食塩化ということである」とTVのインタ−ビュ−に応えてしゃべったことがあった。

 1970年イギリスのロンドンで第6回世界心臓学会が開かれ、高血圧の成因という円卓会議によばれて、高血圧における食塩因子について報告した時であった。

 この報告の中心になったものは、日本人の高血圧と食塩摂取の状況、そして私なりの血圧論からみた人々の血圧が加齢とともにその水準と分布がどのようになるか、それと日常食塩摂取量との関連はグロ−バルにみたらどうなるかを報告したものだが、それを一言でまとめれば Civilization is saltization になったのだ。 

 高血圧が世の問題になってきたときであり、その原因がいろいろといわれていた時でもあったので、他の人が全くふれていなかった食塩について、このはるかかなたの東洋からきた一学者が高血圧における食塩因子という題で一体何をしゃべるのか興味があったのだろう。別室によばれてのインタ−ビュ−であった。

 Civilization is saltization が文明化は梅毒化であるという言葉からでていることは、公衆衛生を勉強した方にはすぐ分かると思う。私もその言葉を覚えていたし、だからつい英語として口にでてしまった。

 しかしこの報告によって日本人の高血圧の実状と、また世界一食塩摂取量が多いことも報告されたから、もしかしたら高血圧に食塩も関係しているのではないかと考えさせることになったのかと思うのである。実際その後世界中から高血圧と食塩についての疫学調査の結果は多く報告されるようになったし、食塩説に反対する研究論文にも私の Jpn.HeartJ.(1962)をよく引用している。

 人々が何故食塩を口にしはじめたのか。それには世界の食塩の旅が始まるのだが、私の興味はひろくそれと健康とのつながりである。しかし研究者の意見はまださまざまである。グロ−バルにみた高血圧と食塩との関連についての疫学的研究として WHO の Intersalt study や CARDIAC study の結果が報告されるようになったが、まだ「Salt saga continued」と書く学者(Brit. J. Med. 1988)もいるのである.

  (日本医事新報 3405, 95, 平成1・7・29)  

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