外胚葉芸術論

 

 年をとって変なことを言ったり書いたりすると「あいつはぼけた」と言われそうだが、本誌をかりて書き留めておきたい。

 「外胚葉芸術論」とは、先日「りんごと健康」(第一出版)を出したあとの一仕事として「食塩と健康」の原稿を書いているときにふと頭に浮かんだ「ハンチ」のことである。「ハンチ」の説明はあとにすることにして、「食塩文化論」をもっと一般的に広く考えたのが「外胚葉芸術論」である。 

 いま芸術といわれるものは、もとをたどれば人間の感覚から出ているのではないかということである。

 すなわち、人間は視覚があって文字を考え、文学や絵画の芸術になり、聴覚があって言葉をしゃべるようになり、また楽器を考えたりして、音楽という芸術になったと考えたらどうかということである。

 この地球上に生まれた人間のうちで塩が身近にあったものは、かなり早い時期に人間の味覚に塩の刺激を受けたと考えられる。その後いろいろのいわゆる調味料をさがし求めた歴史がある。

 触覚や臭覚や温度覚はどうであろうか。環境衛生で検討されてきたこれらの感覚をもとにした芸術はこれからであろうか。

 医学の歴史において病人の診断は視診、触診、さらに聴診と範囲を広げてきたが、その術(アルス)が芸術と訳されるのも故なきにしもあらずと考えられる。

 ところで「ハンチ」とは英語のhunchのことで、戦後下請けのアルバイトで訳したキャノンの「The way of an investigator」という本にあって覚えた言葉である。夜寝ているときなどにふと思いつく「予感とか虫のしらせ」をいうようであるが、「ひらめき」と訳した。

            (日本医事新報,3509,54,平成3.7.27.) 

目次へもどる