ニュ-ジ-ランドへの旅よかったことでしょう
林知己夫先生の「目立つ疫学の誤用」の記事(日経2・2・21)、早速図書館で見ました。林先生は学会で存じあげている方ですが、統計学の大家として知られている方です。もっともご自分で「食塩と高血圧」とか「たばこ」の研究をしておられるとは私は思っていませんが。統計学の立場から気になることが多いのでしょう。
最後に「誤った情報で人生が楽しくなくなるのは避けねばならない」と書いているところは、読者に健康問題には素人の、どちらかというと年輩の方が多い経済新聞誌だけに問題だと思います。前のところで日常生活に関して書いてあることが、あたかも「誤り」であるかのように読者には読み取られる恐れがあると思うからです。
案外ご本人も「誤り」と思っている潜在意識が筆を走らせたかもしれませんが。また同封した「食塩と高血圧の疫学」(Progress in Medicine'83)の始めに書いたようなピッカリング先生と同じの意見のようで、いささか感情論になっていることも問題だと思います。
日常生活の中に危険因子が「ある」のではなく、多くの関連性のなかで危険因子に「なる」というしなやかな考え方が必要で、と書いてあるところは、そのように思います。これは統計学者の考え方を示していると思います。
仮説を立て、追究していく、これはたしかですが、その途中で、ジャ-ナリズムが勝手に書き立てるのが普通です。「逆の調査結果も出されているが、こちらの方はショッキングでないので話題にならない」ことはあると思います。
林先生は疫学の誤用と書いていますが、私に言わせると疫学のことを理解していない記者による「報道の誤り」とでも言うべきものと思います。疫学には疫学の追跡法があるので、たとえば別刷りの「食塩と高血圧の疫学」の中で述べているように、積み重ねがあるのです。その事実を人々がどう考えるかが問題です。古い疫学ではその成果が、「病原体の発見」とか「ビタミンという栄養素への発見」につながったのですが、現在問題になっている「癌」とか「高血圧」とかについては、林先生も書いているように、「新しい統計学も必要」と思います。それを自分としてやりつつあるという意識は自分にはあるのですが。
疫学者の数ほど疫学の定義があるとも言われていますが、衛生の旅に書いたように「疫学の論理」が必要であると思います。その続編(民族衛生'89)を最近書きましたので同封お送りします。
お元気で、奥様によろしく (2・2・21)
お葉書ありがとうございました。
地震のお見舞いもせずにおりましたが、大したこともなくよかったですね。関東大震災が私の2歳のときでした。
「未病研究会」発足のニュ-ス新聞でみておりました。
「未病」とはすでに古くから中国にある概念で結構な言葉ですが、この研究会の「未病」とは、”健康と病気の間を指し、検査値には異常があるが自覚症状のない状態の時期”と新しい意味づけをしている、と医学界の新聞には報道されました。
「具体的には高血圧、高脂血症、糖尿病初期、高尿酸血症、肥満、脂肪肝、B型肝炎キャリア、シンドロ-ムX、それにHIV感染症もエイズ発症以前ならば、”未病”の範ちゅうに入る」
「この未病期間を長くし、その間に経済効果のある、医療を行うことは、自覚症状のない時期から進行を食い止めるという臨床医の役割を果たせるうえ、高齢化社会の抱える医療経済の問題も解決するはず」と語られています。
この発想そのものはすでに病気になった人を相手にしてきた「臨床家」からの発想で、結構とは思いますが、われわれ「衛生学」「疫学」からの「未病」の概念とは異なるものだと、私は思います。
この点につては「衛生の旅 Part 4」の「今こそ発想の転換を 疫学による予防医学へ」に書いたことですが、国際的にはすでに「健康投資」の考えがすでに見られています。わが国ではまだ残念ながらほとんど考えられていないようですが。
もう一つ('94-6-22)付のお手紙で戴いた「医学教育についての技術者養成」に「基本的にあるべき”生きている人間”についての幅広い配慮の取扱があるのではないか」についての私の考えですが、それは大学生になってからの教育というより、それぞれの家庭の中また小中の基礎教育の中にあるべき問題ではないかと思います。
もっとも「病気をみず病人をみよ」とはすでにヒポクラテスの時代から言われていることではありますが。
だだ医学の発展の段階からみると、「こころ」を問題とする「精神医学」はまだ道遠しの感があります。
女子大を退職して一年、若干時間ができ、いろいろと勉強し直す時間がとれるようになりました。近ごろ慶応義塾関連また福沢先生の時代にいろいろ興味があります。例えば「義塾」の「義」には福沢先生としてどんなメッセ-ジがあったのかと思うことがあります。先生自身は書いていないようですし、鳥居新塾長がちょっと述べていましたが。
「向井千秋さん」は後輩ですが、「高橋理事長」も幼稚舎ですし、オウム真理教の医者にも慶応出身者がいるようで、...
お元気で そのうち[衛生の旅 Part 6」をお送りできればと思っていますが。(7-3-28)