本誌:「私たちの名水」認定にあたっての経過みたいなものからお聞かせください。
佐々木:昭和60年度から4回続いたわけですね。経過としては基本的にある決まりをつくり、これを各市町村に回して、それぞれのこれに該当するところがあったら出してくださいと。県としては出せ出せといったことはない。いろいろPRしながらやって、だいたい出そろったので、一応区切りとして4回(昭和60年度−63年度)で終った。僕らの方は委員の任命があって、まとめ役ということでたまたま僕が座長になった。
本誌:われわれも全部回りましたけれど、非常に水周りっていうのはおもしろいなあと感じました。
佐々木:ええ、水はいろいろな面で生活の基礎になっていますからねえ。最近では産業排水という問題もあって、水を単に消毒するだけとか、あるいは汚さないとかいうだけでない。もともと日本というのは水に恵まれている国ですから、それを基本的に大事にしようという考え方がだんだん出てきているわけです。青森県も非常に自然に恵まれているところですから、水そのものをもっと地域社会の人たちが大事に考え、またその一つのきっかけになればという意味も込めて名水は認定されたんです。
本誌:見た感じでは十和田市あたりが比較的管理状態がいいなという気がします。
佐々木:そうですか。それも結局市町村の、また市民の水に対しての認識ですからね。まあ悪ければ認定を取り消すことも一応できるわけですが、水質なんかも、定期的にやってまたチェックするということも形としては可能になってるわけです。
本誌:先ほど青森県は自然に恵まれているとおっしゃいましたが、水の面でも恵まれているということなんでしょうか。
佐々木:まあ、日本全体が恵まれているといわれているんですよね。世界的に見れば。日本人は安全と水はただだと思っているとよくいわれる。「湯水のごとく使う」という言葉も、日本では「非常に浪費する」という意味で使われるが、それこそ中近東とか砂漠地帯に行けば「非常に貴重品」という意味で使われる。我々はあまりにも水が身近にあるもんだから、水が大事なことを忘れてきた、どこでもあると思ってきたわけです。そして、少なくとも30年前までは、水を汚してきたわけです。特に人間の排泄物で。だけども一般に青森県の水質はいいとはいわれています。だからそれを地域社会で大事にすることです。簡易水道をつくったりなんかする段階で、どの町村でも水源を求めたわけですが、水源を大事にするという考え方がないんですよね。
本誌:自然の水があるところに行けば、植物も集中して生えますし、鳥や蝶々といった動物も自然に集まってきて、それは絶対に水道の水では味わえない部分ですね。
佐々木:それはそうですね。
本誌:水道水を大事にする意味でも、もっともっと自然の水と接する機会というものを増やしてやる必要があるんじゃないかという気がしますが。
佐々木:そうなんですね。それぞれの水道の水源を大事にするというか。今の問題は家庭の排水もそうだし、それから工場の排水もそうです。そういうことが問題を起こす時代になってきたというわけです。それを未然に防ぎ、きれいにしなきゃいけないし、汚さないようにしないといけない。
本誌:あとは水はものすごく信仰と結びついていますね。みそぎ、清めといったふうに。
佐々木:それはあるでしょうね。そういうことでの掘り起こしもおもしろいと思いますけどね。また、そいうものは今のうちに調べておかないと分からなくなってしまう。
本誌:当初はデ−タもちゃんと取って認定しているわけですが、今になって大腸菌が出たり、保水力が低下したりしてきている名水が何箇所かある。こういうところはなんとかしてやらなければと思います。
佐々木:だからそれは世論づくりというか、このことはこの会(私たちの名水検討委員会)が終る討議の中にもありましてね。今後はその管理が悪いところは、取り下げることもあるし、水質検査をある程度定期的にやってもいいし、ようするにその町村で自主的にやってもいい。それが必要だというのが名水ってものを認定する理由だったと思うんです。
本誌:それと名水を取材して感じたんですが、青森県内を見渡しても街の中をきれいな川が流れているところがない。本当に小さい町村に行ってもないんですね。
佐々木:そうですね、ひところに比べて少しはよくなりましたが。僕もずっと前学校保健の関係でいろいろ回ったんですが、昔は海岸の小学校へ行けば、朝学校の先生が来て何をするかというと、学校のごみを海に流すことだったんです。ようするに水に流すということが生活の中に入ってたわけです。だいたい川の中には何か流すと、し尿でも何でも流すと、そういう時代が2,30年前まであった。だから、今でもその名残があるわけですよ。だんだんよくはなってきているんでしょうけど、地方へ行けば行くほどそうだと思いますね。
本誌:川にしても源流部はものすごくきれいな水なんでしょうけども。
佐々木:そうなんですよね。だから、そういう下水だとかね、汚すものをチェックしていけばいいんですよ。それを市町村で係の人がやらなければいけないんです。そういう教育をどんどんしていかなければ。実際にやらないわけです。それは小学校の保健でもやれることなんです。私たちの水を大事にしようということで。水ってのは健康のとにかく一番大事なことなんです。
本誌:我々の意識としては、水を汚さないんだ、水を汚さないということはある意味での自然保護なんだという意識づくりが必要でしょうね。佐々木:そりゃそうです。外国の例では水源地を通る汽車は、し尿を流さないとかそういうことをやってるんです。日本ではその辺は野放しでしょうけど。八甲田に登ってもね、水源になってるのに、その周りでし尿するとかいうことをみんなするわけで、そういうところは常識のレベルが上がらないと。それと浄化槽がついた便所を作るとか。そいうふうな設備をしてやらなければならないわけです。東京みたいなところは水はだんだん飲めなくなってきているわけです。そういう状態には青森県はさせたくないですね。
本誌:本当にそうですね。ありがとうございました。