公演批評
日本橋オペラ2015ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」
日本の首都東京の中心部で有名オペラを聴こう。日本橋オペラが遂に旗揚げ。このほど第1回公演としてワーグナーの代表作にして最大の難曲としても知られる「トリスタンとイゾルデ」が採り上げられた。(日本語字幕付きノーカット原語上演)。
佐々木修指揮ワーグナーアンサンブルの演奏。新鋭舘亜里沙の演出に加え、配役はイゾルデに福田祥子、トリスタンに片寄純也(1、2幕)と両主役に実力者を揃えた豪華布陣、会場には指揮者と縁のある人気ポップアート作家奈良美智の幻の若書きや今回の公演のために委嘱されたジョージア(グルジア)の女流画家ニノ・カルミゼの「トリスタンとイゾルデ」も飾られ、日本橋の地に総合芸術空間が現出。
舞台上に置かれたオーケストラは佐々木自身の編曲になる室内楽版による一菅編成(イングリッシュホルンやバスクラ入り)だったが、会場の規模も幸いし第1幕の前奏曲から過不足ない響きで楽しめ、弦楽器が右側に配置されたため、本場バイロイト同様第1ヴァイオリンが右に来たのも面白かった。佐々木は座っての指揮だったが相変わらず無駄なく合理的で的確な指揮ぶり。この劇場は本来歌舞伎上演などに使用されることが多いせいか、客席の通路を花道のように活用。水夫が2階席サイドで歌ったり、歌手は縦横無尽に動き回っていた。第2幕でも福田と片寄の名コンビが愛の二重唱で「うつし世は夢、夜の夢こそまこと」の世界を熱唱。演出も終結のユニークなパントマイムなど独自性が光っていたが基本的にはオーソドックスなものでワーグナーの世界を逸脱せず好感が持てた。第3幕のトリスタン升島唯博はやや非力だったものの本場仕込みの丁寧な歌唱は充分存在感があり、3幕でのトリスタンは瀕死の重傷だけにこれでいいのだともいえる。ヒロイン福田は既にブリュンヒルデやイゾルデとしての経験も豊富なだけにその圧倒的な声量といい「愛の死」は貫禄充分だった。(5月2日、日本橋劇場)(浅岡弘和)