1997-9
ジュリアードに同郷の調律師が!
ここジュリアードには音楽、舞踊、演劇の3つの学部があり約800人の学生が明日の舞台を夢みて学んでいます。音楽学部には学部生、大学院生(修士、博士課程)の他に、学部生もしくは大学院を既に修めた人が専門レッスンを中心に一年から二年間研鑽を積む別のコースがあります。今日はそのコース(プロフェッショナルスタディ)に在籍している青森市出身の浅利正人さん(31)のお話しを紹介したいと思います。

浅利さんは中学校の頃よりピアノの勉強を始めますが、演奏家ではなく調律師の道を志し、ジュリアードにも(株)サンミューズの派遣社員としてジュリアードの240台のピアノの修理調整に携わっています。学校には5人の調律師がおり、その工房はまるでピアノの病院の様に幾台ものピアノが修理を待っているのが印象的でした。ピアノと一言で言っても人の顔や性格が各々違うように楽器にも個性があり、またその楽器の配されている環境や演奏者によっても音色は大きく変化します。調律師は演奏会場やピアノの特性を把握し、楽器の長所を伸ばすと同時に演奏家の好みも取り入れ整えてゆく、いわば客の顔を見てから料理を決める板前さんの様な人。と私は考えます。


たくさんの道具が並ぶジュリアードのピアノ工房で。
専門の調律師と一緒に、鳴海さん(左)浅利さん(中央)
ニューヨークの音
そんな浅利さんの二年間の収穫は「ニューヨークの音という存在。また優劣ではなく、欧米人と日本人の音に対する感覚が違うということに気がついた。」ことだそうです。浅利さんが朝の7時より毎日30台ものピアノの調律をし、様々な経験を積んで美音を探求していく姿は、演奏家が日々の練習をなによりの支えとする事と共通していると思います。
せっかく津軽弁で話せる人との出会いがあったのですが、浅利さんはこの9月で二年間の研修を終えて帰国しました。

プロを育てるプロの集団
つまりジュリアードは音楽家の卵だけではなく、彼等を一生懸命陰から支えてゆく健やかな耳と確かな技術をもつ調律師も育てているのです。それはこの学校が調律師を育てるということを演奏家を育てることと同様に捉えていることであり、いつかこの欄でお話しするつもりですが、一人の演奏家が舞台に立つ為にどれだけ多方面の専門家が分業して教育しているか!!と驚いた時と同じ思いをもちました。毎日練習室と家を往復する学生の他に、浅利さんのような立場の学生が私のジュリアードの風景に加わりました。

青森の気候は音楽が育つ!?
浅利さんの話しの中で、青森県の気候は西洋楽器にとって大変に好ましい条件で、楽器工房が無いのが不思議な位だそうです。楽器自体が気持ちよく鳴る環境にあると、聴く人の耳も音楽に対して敏感になっているそうです。津軽三味線や民謡が盛んなこともそういった気候が少なからず影響しているのではないでしょうか。
そうして青森出身の二人がこうしてジュリアードで学んでいるのも青森の気候のおかげかしら・・・。

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