<第2幕>
第1場/マリーの部屋  下級兵士ヴォツェックの内縁の妻マリーが、自分の耳に付いた金のイヤリングを眺め、鏡の中で満足そうに笑っている。イヤリングは情事の相手である鼓手長から貰った物だ。そこへヴォツェックが帰って来て、そのイヤリングは一体どうやって手に入れたのかと問い質すので、マリーは思わず拾った物だと答える。ヴォツェックは両方一度に拾う訳がないと食い下がるが、それ以上はマリーを責めず、貰った給料や医師からの謝礼を全てマリーに渡し仕事へ戻っていった。
 その僅かなお金を前にして、マリーは罪悪感に苛まれるが、全ては世の中が悪いと貧しい身の上を呪った。
第2場/町の通り
 医師が早足で町中を歩いていると、通りかかった大尉がそれを呼び止めた。そして「善良な人間はもっとゆっくり行動するものですぞ!」と嫌味を言うので、医師も負けじと「最近急死する患者が増えているのだが、あんたも見たところあと4週間で脳卒中になり、良くても半身不随..という顔色をしてますな。」とやり返す。それを聞きショックを受けている大尉の横を、ヴォツェックがフラフラと通り過ぎた。
 医師と大尉はヴォツェックを呼び止めると、今度は2人してヴォツェックに毒づいた。「お前は自分の妻が何をしてるか知っているか?スープ皿や妻の唇に、見慣れぬ長い髭が付いてないか確かめてみた方がいいぞ!」と。それを聞いたヴォツェックは、真っ青になって家へと走り出した。
第3場/マリーの家の前
 ヴォツェックはマリーの家の前の戸口で、マリーの不貞を責め立てた。そして開き直るマリーに殴りかかろうとするが「父さんにも10才の頃から殴られたことはないわ!殴られるくらいならナイフで刺された方がまし!」と凄まれ、すごすごと引き下がった。放心状態でマリーの家を後にするヴォツェックの心の中には「ナイフ」という言葉が強烈に刻み込まれ、見る見る内にどす黒い感情が彼を支配していった。
第4場/酒場
 酒場は飲んで歌い踊る若者たち、兵士や町の職人たちでごった返していた。2人の徒弟職人が泥酔して歌い、辺りを盛り上げていたが、彼らはその内眠り込んでしまった。そこには体を寄せ合い一緒に踊る、ヴォツェックの妻マリーと、不倫相手の鼓手長の姿もあった。そこへヴォツェックが現れ、マリーと鼓手長の仲睦まじい様子を見て嫉妬に狂い、2人のいる場所に近付こうとするが、ちょうど踊り終わった兵士たちの波に押し戻されてしまう。兵士たちや友人アンドレスが陽気に歌い出すと、ヴォツェックはすっかり戦意を喪失し、店の隅の方へ座り肩を落とした。そこへ1人の知恵遅れの男が近付いてきて、ヴォツェックに「お前は血の臭いがする!」と言う。するとヴォツェックは、体の中から何か熱いものが噴き出し、目の前が真っ赤に染まっていく感覚に囚われた。
第5場/兵士宿舎
 夜。宿舎の部屋で沢山の兵士が眠る中、ヴォツェックはなかなか寝付けない。目を閉じるとキラキラ光るナイフの幻覚を見たり、ダンスをする足音の幻聴が聞こえたりするのだ。錯乱して叫び出すヴォツェックを、ベッドの上の段で寝ているアンドレスがうるさいと怒鳴りつける。
 そこへ酒の瓶を片手に、すっかり酔っ払った鼓手長が入ってきた。鼓手長はフラフラと部屋の中を歩きながら「俺の女はたまらなくいい女だ!どんな女かはヴォツェックに聞いてみろ!」と当のヴォツェックに酒を勧めながら言った。ヴォツェックが素知らぬ顔で口笛を吹き無視していると、その態度に憤慨した鼓手長は、ヴォツェックを床に組み敷き「俺を誰だと思っている!」と吐き捨てるように言い、口笛を真似しながら部屋を出ていった。ヴォツェックは悔しさで体を震わせながら、焦点の合わない眼で「順番に一人ずつだな..」と意味ありげに呟いた。

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