序曲「ジプシー男爵」の主な旋律が連なりハンガリーの世界へと誘う。
第1幕:ハンガリーのテメシュヴァールの田園
オーストリアとトルコで争われたベオグラードの戦いでトルコが敗れた際に、テシュメバールのどこかに財宝をかくしたまま逃亡したという言い伝えがあった。当時テシュメバールを治めていたバリンカイ家はスパイ容疑で亡命を余儀なくされ、まだ幼子であったサシャンドール・バリンカイは孤児となり、さすらいの旅を続けていた。月日は流れバリンカイは成人し、スパイ容疑も晴れて、いま政府はテシュメバールの領土の正当な継承者として、サシャンドール・バリンカイを探していた。ホモナイ伯爵県知事の命をうけ、カルネロ伯爵が政府委員として捜索の旅に出る。物語はカルネロ伯爵がバリンカイを探し出し、故郷に連れ帰るところから始まる。
放浪の旅を続けていたバリンカイはアリア「男がその気になったなら」と、自分の数奇な運命を朗らかに歌う。のびのびとした屈託のない旋律に乗ってバリンカイの明るい未来が動き出す。帰郷したカルネロ伯爵とバリンカイは、領土の相続証明書に二人の証人のサインをもらわなければならなかった。まず彼らはバリンカイの故郷テシュメバールの土着の民、ジプシーの老女ツイプラを訪れる。字の書けないツイプラは証文に十文字でサインをする。そして二人の将来を占い始める。バリンカイは妻と財宝を、カルネロ伯爵は昔失った大事なものを取り戻すだろうと予言する。老女ツイプラがここで歌う予言のアリアは、アルトの柔らかな音色の生きた豊かな味わいを醸し出している。二人を占ったツイプラは「イヒヒのワルツ」を歌いながら姿を消してしまう。あっけに取られながらも、次に二人は「豚王」と呼ばれているジュパンの元を訪れる。ジュパンはバリンカイ家の領土を不法に我が物にしようとしていたが、法に訴えると脅されて慌ててサインに応じる。彼もまた文盲であるため得意の豚の絵をサインがわりにして「豚を飼うのが一番得意」と陽気に歌う。そしてバリンカイに自慢の娘アルゼーナとの婚約を勧める。バリンカイも一目見るなりその美しさに魅かれて熱い思いを歌うが、アルゼーナの態度はつれなく、高飛車にすましたまま、アリア「また一人求婚者が現れた」と歌う。実はアルゼーナは家庭教師の息子のオットカールと恋仲であったため、他の男との婚約など考えられないのであった。一方教え子アルゼーナに付き添って来た家庭教師のミラベッラはカルネロ伯爵が自分の生き別れた夫だと気がつく。カルネロ伯爵もすっかり太ってしまった妻ではあるが確かに「大事な失くしものが戻る」と言う老婆の予言が的中したことに驚く。村人たちが楽しげに「さあ召し上がれ、結婚のお菓子を」と歌い踊る中、バリンカイの熱心な結婚申し込みをアルゼーナは「まずは男爵になってからね」とかわして去っていく。
一人残されたバリンカイはすっかり意気消沈して一人森をさまよっていた。するとどこからか歌声が聞こえてくる。みると美しい娘が「この世でジプシー程素敵なものはない」と歌っている。うっそうとした森の中に響く懐かしい哀愁を帯びた旋律、バリンカイは幼いころ母親がよく歌っていたその歌に誘われザッフィの後をつけていく。すると先程の占い師ツイプラの家に行きつく。ツイプラは娘のザッフィにバリンカイを新しいご主人様だと紹介する。ザッフィは喜んで、帰還した新しい領主バリンカイを古い城に案内する。その途中でバリンカイとザッフィはアルゼーナとオットカールの逢引きを目撃してしまう。熱く抱き合い、愛をささやき合っている二人を見たバリンカイは、恋人がいながら思わせぶりに「男爵以上の男でなければ結婚しない」などと言ったアルゼーナに腹を立てる。そこに「俺達に気をつけなさい!」と力強く歌いながらジプシー達が登場する。老女ツイプラはかつての領主「ジプシー男爵」の息子が新しい領主として戻ってきたと告げる。ジプシー達は新たなご主人様としてバリンカイを讃える。意気上がるバリンカイはカルネロ伯爵やジュパン達を呼び出し、自分は「ジプシー男爵に」なったと宣言し、高慢ちきなアルナーゼなどこちらから願い下げ、私はザッフィと結婚するとみなを驚かせる。侮辱されたと憤るジュパンとアルゼーナ。ジプシーとの結婚など許されないと息巻くカルネロ伯爵たちの言いがかりをよそに、一族の長を迎えた喜びを讃美するジプシー達の合唱とバリンカイとザッフィの二重唱が共に力強く新たな運命の讃歌を歌い上げる。
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