冷蔵庫と高血圧。このとりあわせをどう読みとってくれるだろう。
「冷蔵庫は冷えるからね」「冷たいね」「血圧に悪いに違いないよ」これなら前回書いた「こたつと高血圧」でいったことの繰り返しになる。
冷蔵庫の中に入って仕事をするごく少数の人たちは例外として、ここでいう冷蔵庫とは各家庭にある冷蔵庫。食物を冷やすための、いや食物を保存するための冷蔵庫、それよりもっと先へ進んだ形としての冷凍庫といいたいところである。
この二つのつながりを充分理解していただくためには相当の説明が必要なのだが、実はこの話、ことし(昭和39年)京都で開かれる第34回日本衛生学会総会で、私が「生活と高血圧」という題で特別講演をする、そのエッセンスなのである。
高血圧の発生・予防に、食生活が関係ありそうだというのはいまや世界の定説といってよかろう。欧米のように動脈硬化からの心臓病が多いところでは、カロリ−とか脂肪の、それも動物性脂肪のとりすぎが問題になっている。
日本はどうなのか。「日本人の脳卒中の特殊性」を研究しようと学者たちがあつまったのはつい一昨年のこと。だから日本ではこうなんだといま言える人はいない。研究員の一人である私は、日本人として、とくに東北地方の人たちとしては、塩のとりすぎが悪いことを第一に考えるべきではないかと主張している。
高血圧の人に塩が悪いこと、これはもう常識である。高血圧で治療を受けている人、入院して減塩療法をやっている人だけでなく一般の人たちの小さい時からの食生活を問題にしたいのである。
いまこの夕刊を読み、食事をしている方々。一体、塩はどこからはいってくるか、ご存じですか。100万円にあたるクイズなら考える? いや、高血圧の人はさらに悪くならないために、これだけは知っておかなくてはならない。あなたの命が、たった100万円ぽっちだと思っている人は別だが。
日本人の食生活の型からいって、みそ汁、つけ物、塩魚、料理にしょうゆをつかって、ご飯を腹いっぱい食べる食生活、この食生活の型に、食塩が沢山はいる理由があることは明らかである。
こんな食生活の型のない外国では、塩はせいぜい1日10グラム以下。それでも多すぎるといっていいのに、東北地方では、30グラム、40グラムとっている人がかなりいる。みそ汁1杯に2,3グラムの塩ははいっているのだから。
この話をしたら、みそ屋さんが飛んできました。「みそを攻撃してはこまります」勿論です。みそは日本人の食生活の中で、実に貴重なタンパク質源となってきた。大豆のタンパク質がもっともよいものの一つであることはわかっている。だが塩がはいりすぎるのが悪いといったのである。勉強がたりません。塩の分析値すらもっていないみそ屋さんが多いのだから。
どうして塩が私たちの生活に入ってきたか。サラリ−の語源ともなったこの貴重な塩。いままで、主として食物の保存用、貯蔵用として用いられてきた。
飢饉のあった時代ならいざしらず、大きなみそのタルを家の中に置いておくことは、その家の経済的な安定性優位性を示しているとはもはやいえないでしょう。
いや世界の体勢は、塩蔵から冷蔵へという時代である。そしてもっとよい方法へと皆の研究は進んでいる。
人間の食物の中に、塩を付け加えてきた。そしてその生活に慣れてしまった。そこに文明のゆがみをみることをみることはできないでしょうか。