ベネフィット・ファクタ−

 

 リスク・ファクタ−という言葉がよく用いられるようになった。

 疫学では、「疾病の発生を変化させる宿主または環境の特性で、必ずしも原因因子とは限らない」「特定の疾病に対する罹患率や死亡率を増大させるか、またはその疑いのあるもの」「インタ−ベンション(介入)によって、疾病や特定の結果の発生率を減らすような修正或いは加減をしうる因子」と定義される。最近の疫学的研究のなかでリスク・ファクタ−はいわれるようになったと思うが、一般には単に危険因子という意味に用いられているようである。

 臨床のように疾病があることから出発すれば、疾病は危険なことと考えられから、リスクでよいと思うが、疫学は疾病のある人もない人もすべての人々を対象として出発するので、疾病のないような理由も知りたいと考える。となるとリスクばかりではない。

 あるところで高血圧のない人々がいると、その理由を知りたいと思うのは当然であろう。それは人々の宿主や生活環境にリスクがあるより、ベネフィットがあると思う。

 日本の東北地方に若い時から高血圧があり、脳卒中で死亡することがヒントになって浮かんできた食塩過剰摂取が高血圧や脳卒中のリスク・ファクタ−と考えられてきたが、りんごを食べることはそのリスクを減らすようだ。

 発がんの実験的研究では、イニシエ−ションとかプロモ−ションとか、また発がんを減少させるものを抗プロモ−タ−とかレデユ−サ−とかいっているようである。

 生活の中に疾病を未然に起こさない因子があるとすれば、リスクというより、ベネフィット・ファクタ−といったほうが良いと思うし、それを探求したいものである。それがわかれば、いけない、いけないというより、こういう生活をしなさいといえることになってよいのではないか。

 これからはRFよりBFの時代だ。

日本医事新報,3323,104,昭63.1.2.)

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