日本人の食塩摂取はどうあるべきか(対談)

 (昭和53年1978年9月21日東京で第8回世界心臓学会開催会期中に行われた)

 平田清文(東邦大医内科):日本人の栄養所要量は5年ごとに改正されるのですが、今、昭和55年の日本人の栄養所要量を改正すべく検討が行われているところです。すでに50年のものが出ているわけで、とくに前回では今までの概念としての栄養所要量として、食塩の所要量は実質的には示されないことになった。その根拠はいろいろあるわけですが、しかし、それでいいのかということになりますと、今度は逆な意味でいろいろ誤解があるわけです。

 ”所要量”というのは”必要量”としてそれを摂らないと栄養なり、健康上に支障をきたすということなので、それを今までのように15gだとか13gだということは量的には誤りであることから、この前やめたのです。

しかし、実際には食塩は必要なものだとし、必要量はあるわけです。それを狭義の所要量という形で取り上げることは、いまいったような理由で適切でない。おそらく、将来そういった、何かの形で食塩を摂る望ましい量があるとすれば、それは適正な摂取量ないし許容量(recommended dietary intake ないしはallowance)といった形で取り上げないことには、今のままでは無責任だろう、ということになると思います。食塩の数値を全く放任して、わからないから勝手にしろというわけにはいかないと思うのです。ですからその辺の問題をめぐりまして今日は先生に日本人の食塩摂取はどうあるべきか、お考えをお聞かせいただきたと思います。

 

日本人の場合、ナトリウムはミニマム何グラムが望ましいか

 

 ミニマムを何グラムぐらいに考えるかということが一つあると思いますが、いままでのド−ルらのデ−タでだいたいの線は出ると思いますけれども、具体的に日本人の場合どのくらいの量が望ましいか、とくに塩化ナトリウムについて答申するメンバ−の一人として、ぜひ先生の広い地球疫学的な見解からのご意見を伺いたいと思うわけです。

 最近米国で食塩3gぐらいがどうかとか、高血圧予防にFreisは2gの食塩がどうのとかいう極端な意見も出てきていますが、日本人という特殊な食習慣をもっているポピュレ−ションについての今までの研究を考えて、実際にはどうなのでしょうか。一見学問的であるようでいて非常に非現実的で、一般庶民には受け入れられるものではないと思うのですね。治療食レベルで厳格に食事の指示をするときは勿論必要なことだし、もっと厳しい減塩食もあり得ることは事実ですが、広い国民栄養という見地に立った場合、先生はどのようにお考えですか。

佐々木直亮:これは大変難しい質問ですね。それぞれの立場からのご意見があると思うのですが、私自身のいままでの研究の推移からいえば、色々文献を調べてみますと、日本にもちゃんと歴史的に決めていったいきさつがあるわけなのですね。

 一応簡単に、歴史的に15gにされた理由、13gになった理由を資料上からいろいろ分析した結果を、端的にいえば、そこに根拠がない、あるいは間違った考えといわざるを得ないということになりまして、それを学会に報告したというわけなんです。

平田:要するに誤りのステ−トメントであったということから、では、今後の方針はどうあるべきか、誤りなら正しいものがなくてはいけないと思うのです。

 

安全率を掛けることの是非

 

 所要量の考え方、概念を基本的に改める中で、食塩の適正の摂取量も考えていかなければならないと思うのですが、厚生省も実は考え方のニュアンスがだいぶ動いてきているのですね。たとえば全体的な必要量とかいうのは実際の数値に結びついているのですが、実はかなり安全率を掛けて、何%かよけい摂っておくようにというふうに指示れるのですね。

 たとえばエネルギ−全体の問題にしても、実際の必要量は2000-2200Kcalあれば十分なのに、昔はそれに上乗せして2500だ、2600だといってたくさんの食事を摂らなければいけないように所要量で示した。そのまま、もろにとっていくと、みんな肥満になってしまうわけですね。ですから50年度の所要量も、今までのそういう意味での安全率的なマ−ジンははずして、必要量をほんとうにそのまま示す方向に向いているわけなんです。

 ですから、食塩などは、まさにそういう意味で今までの所要量の概念の誤ちの、一番典型的なものだったと思うのですね。

佐々木:ただ、それが必ずしも誤りといえない同情論をいえば、決めるにあたってそれなりの理由、学問的な背景、あるいは当時の学問水準というか常識があったと思うのです。

 たとえば先年、南極へ始めて遠征したときに、そこの食事構成をどうするかというときに、かなり食塩を入れなければいけないのではないかとか、という意見が有力でした。

 それは”わが国における食塩摂取の常識についての問題点”(日公衛誌,昭37)ということで、日本には日本なりの常識があるのですね。

 最初に大森憲太先生が学会で取り上げたときにも、必ずしもはっきりとはいっておられない。そして、現実に日本人はこれだけ摂っていると言うことで、それ以上過ぎれば腎臓に悪いという程度でおさめていたようです。それから日本人の所要量として決まっていったときにも、先生が今おしゃったような生理的な本当の必要量というのはまだわからないのだ、といいつつも、”現実には”ということで決めていっているいきさつがあります。

 

食塩の生理的メカニズムについての誤解

 

 それから、とにかくこれまで食塩全体に対しての害なんていうことはほとんどいわれてこなかった。むしろその必要性がいわれてきた。

 たとえば満州で寒い生活をするときには必要だとか、代謝が上がるとか、それだけ考えれば生理的に非常にいいわけです。汗をかくときに食塩が出る。それなら食塩をたくさんやればいいんじゃないか。”夏バテを防ぐためにどうしたらいいか”なんていう意見が新聞に出るわけですね、食塩が必要なんだと・・・

 ところが、汗の中に出てくる食塩の量についての研究は、現在のところホルモンのほうからいう本当の研究はまだ少ない、といってもよい。そういうことを理解している先生も日本では少ない。どんどん汗の中に出ていってしまうように理解しているのではないかと思うのですが。

平田:それは大きな間違いで、臨床家としてはコ−ン(Conn)症候群というのをみているわけです。本態性高血圧に非常によく似ていて、原発性のアルドステロン症として1956年だと思うのですが発表され、establishされた病気です。

 コ−ン先生はもともと汗の研究者なんですね。この病気をみつけたきっかけというのは、原著によれば本来は、汗を分析しておられて、非常に高温に晒して汗のナトリウムを測っていたわけです。もちろん初めはたくさん出るわけですけども、それに体が適応しますと非常に少ない量になるのです。一般的に汗の中にナトリウムはだいたい5-80mEq/lとか、日本人の栄養所要量の本には1リットル当たり2.8gくらい相当のファクタ−をかけてロスされているように・・・。

佐々木:労研の先生たちの報告が尾を引いていると思いますね。

平田:ところが実際は、コ−ン先生の論文を見ましても0.1%ぐらいに落ちるのです。だからコ−ン先生は考えたわけですね。汗のナトリウムを調節するものがどかにあるはずだと、当時、アルドステロンを測るにしても大変難しかったわけでせよう。

 

ナトリウムを調節するホルモン−−アルデステロン

 

 それで、実際にはウシの副腎を何トンか集めて、やっと数mgのアルドステロンの分離同定に成功したわけです。ところがそれを化学的に分析するのは容易ではない。実際は副腎をとったネズミで、要するにmineral corticoid activity, sodium retainining activityを測る方法が開発されまして、それをアメリカのルッチャ−という人がやったのを、コ−ン先生が汗の中のナトリウムが少ない状態の人の尿で測ってみるとやはり増えているということで、臨床的に初めて、普通の人間でもアルドステロンというものがあるらしいということがわかったわけです。彼は、分離同定まではできませんでしたけれど、初めのうちはbiologicalなactivityとしてこれを検出したわけです。

 それでたまたまコ−ン先生の研究室におりました一女性だと思うんですけれど、半年生活をともにして、ともかく細かい日常生活を分析し、汗のナトリウムを測った。やっぱり低い。べつにこの人は高温に晒して特別な訓練をしたとか、そういう経験の持ち主ではないのです。そしてコ−ン先生の偉いのは、これはやはり副腎からアルドステロンが出るのだろうということを外科医に相談して手術をしてもらったのです。そうしたら、直径わずか1cmくらいのadenoma(腺腫)が発見されて、それを摘出したら見事に治ってしまったわけです。

 そういうことから始まっているように、すでに臨床の立場でもmineral corticoidがアルドステロンとして、腎臓だけでなく汗腺にも作用するということが明らかにされたと思うのですね。そういうわけで汗の問題も、obligatory lossといいますか、”汗をかくから必然的にたくさん食塩を失うのだ”という固定的な考えが未だにあるのです。

 

食塩についての昔の常識

 

佐々木:私はあると思う。あるから非常に短絡して理論が発展してしまっているように思うのですね。そういう昔の常識がまかり通って、今先生がおしゃった新しい理解ができていないのではないかと−−−。それぞれの時代によって考えが変わってきているのではないかということですね。

平田:それともう一つ、大変誤った概念だと思うのですけれども、昔なら日本人はよくご飯を食べるし野菜も多い。だからカリウムが多い、肉にも実はたくさん含まれているのですけどもね。

 そういう意味で、お米を大食するからカリウムを多く摂る。そのほか野菜類も含めて、そのときにはナトリウムがよけいにいるのだという非常に古い考えが依然としてあるのですね。

佐々木:そうなんです。日本の教科書は全部そうです。10部のうちほんの1部ぐらいが新しい概念を述べているのだと、ということを、昭和37年に”日本公衆衛生学雑誌”に出したのです。ところが、いま先生がおしゃったように、だいたいまだそれがまかり通っていることで、それもある時代には是認されて、今の13gというのが決まってきた歴史的な背景があるのではないかというふうに思いますね。

 

所要量という言葉の解釈

 

 それから所要量という言葉の問題ですが、これがまた困るのは、一般に通用している言葉と法律的な言葉が若干違うんですね。いままで通用しているのはよく読んでみるとちゃんと法律家が書いた言葉のように抜け道がありまして、”所要量”と書いたってそれはいわゆる”所要量”ではないんのですよね。だから、正確に厚生省の委員会で言葉を説明するというか・・・。確かに説明してあるとおしゃるかもしれませんけれども、もっとわかりたすい形でね。だから、所要量をどういう意味で質問されているかということがわからないと返答にちょっと困るわけですね。すぐ答えられない。私のいう数字なりをどう理解されるかということと関連してしまうものですから、どうしたらいいでしょうかね。

平田:この際、やはりストレ−トにminimum requirementというものはどのくらいいるかということをまず明示することと、それから先ほどのrecommendedないしoptimal−−これがいいのかどうかわからないのですが−−とりあえず食塩の場合、特に日本人の現状に照らしてこうあることが望ましい、という数値を示すことだと思います。

 そういう考えではヨ−ロッパでもアメリカでも日本的な”栄養所要量”という表現ではないんですね。recommended dietary intakeまたはallowanceです。最近はdietary goalという言葉も用いられています。だからその考えにのっとって、当面するわれわれ日本人としてはどのくらいが望ましいか、それはだれかがrecommendするのが望ましいと思うんです。今のように”わかりません”では・・・。

 

厚生省のいう10gの根拠は

 

佐々木:具体的な厚生省の班会議の栄養指導の内容としては、一応10gという線が出ていました。”普通の人”ということでいっているのですが、それにとくに根拠があるわけではないですね。

平田:先生の疫学的な非常に広い視野からごらんになられて、もちろん10g以上で高血圧ないし年齢に伴う血圧の上昇の傾向は、これはもう明らか・・。

佐々木:それは私の入っている委員会の一応合意を得た値なんですけれども、私自身の考えからいえば、また持っている証拠からいえば、5gということをいったことがあるのですよ。ド−ル先生もだいたいそのレベルをいっていますね。

平田:最初にrecommendした量はそうですね。一般のは。

佐々木:ド−ル先生がどいう根拠でいったかはちょっと明確ではないのですけれども、一応書いていますよね。

平田:あの考えはミニマムが0.5g、いろいろなことを考えて10倍でいいというわけです。非常にグロ−ブなexcuseをしているのですね。

 

血圧と食塩の関係

 

佐々木:なるほど、人々の血圧からいえば、いろんな人口集団の平均値と分布ということを考えます。

 子供の時は低いけれども、大人になったときにだいたい120-140mmHgぐらいに落ち着いて、それが一生続く。それに個人差というものがありますから、normal distributionを考えて、そういう最高血圧の分布としての上限を考えるとすれば、だいたい150ぐらいになる。下のほうは80ぐらいにになる。その中に大体一生おさまる形というのが、いろいろな指標からみて一番normalだと考えるとすれば、そういう人口集団はいろいろな文献からみて、だいたい食塩を5g以下を摂っている集団ではないか。7gか8gか10gか、それからはずれるとちょっとその分布が乱れてくる。したがって、50歳だとか60歳の人をとると必ずそれから乱れたところにいくのだ。私の血圧論からいけば、だいたいそのぐらいの線が出るのではないかということを考えて述べたことがあります。

 全く先生と同じ質問をこのあいだアメリカから電報で受けましてね。向こうでも何かやっているらしいですね。お前はどう考えるかということで私の立場ではそういうふうに考えるということを返事しましたが、それ以外に私自身が持っている証拠というのはないのです。

平田:そうしますと、5g以下の排泄量であれば、一応先生のいわれたnormal distributionをカバ−する、いわゆるnormotensiveのグル−プですね。

佐々木:一生このくらいの量の食塩を食べて元気で生きていけるのではないかという・・・。

平田:問題は、高血圧の発生病理に触れるとこれは大きくなりますのでちょっと避けたいのですけれども、食塩だけで条件づけられるか条件づけられないかということがあるわけですね。

佐々木:それはもちろんあります。

平田:だから、一応normotensive groupを考えるわけですね。5gから10gぐらいの間になると、かなり血圧は上がってくる。

佐々木:一応今までのいろいろなところのデ−タからいえば、どうしても分布に乱れが出てくるという感じです。

 

日本人の食生活パタ−ンと食塩

 

平田:はっきり”食塩が有害である”、この考えはこの際やはり受け入れなければいけないのだろうと思うのです。血圧が上がってくるからよくない、というふうに考えるわけなのでが、本当に”有害”という−−この言葉はとても強いので問題なんですね−−、要するに上限量としてこれ以上はほんとうにいけないというようなこと、もしそういう量があるとすれば、まさにそこがリミットだろうと思うのです。

 日本の実情、世界的な背景はまた別なのですが、たとえばブラジルの奥だとか、ニュ−ギニヤだとかソロモン群島というのとちょっと並べるわけにいかないっものですから、日本の古い歴史のある味噌なりしょうゆなり長年ふるさとの味と称して愛用してきている国民に、dangerousが、あるいは上限量としてそれ以上は望ましくないというものがあるとすれば、先程先生”10g”ということもおしゃいましたから、そこいらと理解してよろしいのでしょうか。

佐々木:というのは、一般に通用する値、だいたいちょっと気をつければやっていける線だと。私自身もかなり自分で気をつけていますけれども、現実に7-8gに下げることは、日本のごく普通の生活をしていればちょっとできないですね。いたるところに塩が入っていますからね。

 自分でかなり気をつけていてもそのぐらいですから、10gといったってなかなか難しいかと思いますけれども、それでは10gが少なすぎるで害があるのだというような成績はあまりないでしょう。目標としては一応わかりたすい数字じゃないかということで、委員会として合意をしていただいたわけなのです。だから、厚生省関係の指導要綱の中にはその数字が流れると思いますね。それじゃ根拠はあるのか、ある学者にいわせれば多すぎるといわれるかもしれませんけれども、とりあえずの目標ということで一応皆さん合意されるのではないかと思うのです。

平田:先程の具体的に何gぐらいまでは日常の日本人の従来の感覚からいって減らせられるか、imposibleじゃしょうがないわけですからね。

佐々木:それはケンプナ−の食事が出たときでも抵抗があったので、ケンプナ−の食事では全く受け入れられなかったと思います。

平田:実は私、両親が高血圧だった。父は脳卒中で片まひになって6,7年ぐらいで死にまして、母はほんのちょっとの脳血栓でちょっと脳がおかしいのですが、多少はやはり血圧が高い。

 両親が高血圧だということ、それから私自身40歳の時生命保険にかかったとき、先生少し高いですななんていわれて、それ以来自ら減塩にすることに心がけています。女房が東北の人間なものですから−−これは先生の、夫婦の間は必ずしも血圧は相関しないという面白い観察がありますけれど−−、最近どのくらい食塩を摂っているか女房と2人の24時間尿を分析したのです。その成績が出たのですけれども、大体8g前後ですね、うちで摂るのは。

佐々木:そうだと思います。

平田:ですから、そういう献立もあるのですけれども、わりと塩分を少なくしたなと思っても、かなり日本的な食事でしてね。

佐々木:約150mEq/dayですね。そんなところじゃないでしょうか。

平田:このぐらいでしたら、かなり日本的な食事でもやっていけるということを認識できたのですけれどもね。ですから、あまり極端な数字はいえないので、私自身も先生がおしゃられたような数が何となくresonableな感じをもっているわけなんです。

佐々木:もう一つ抵抗があるのは、東北でもそうなんですが、塩分を非常にたくさん摂っていてもそれほど血圧が上がらない人がたくさんいますから、そういう人には受け入れられないことになりますよね。

 もう一つは、動物なのでもいわれることですが、もう大人になってからでは若干手遅れだと言う考えもありまして、最近では小児科領域から問題になっているのですね。

 

小児期からの食塩が問題に

 

 そういうところに問題がきているのですから、とくに高血圧を問題にする老人に対してはあまりうるさくいわないのだというふうな考え方も出てきていました、むしろ若いほうに目を向けられてきてますでしょう。手遅れになった人にワ−ワ−いったってしょうがないといいますか、かえって気の毒だという面もありまして、今小児科ばどでは離乳食から色々問題にしてくるような雰囲気ですね。

平田:そうですね。アメリカの小児科学会で、recommendationを出しておりますね。

佐々木:これはかなり強いものです。これはさっきお話したド−ル先生なんかの仕事が影響していると思いますけれども、かなりそういう意見があると思います。

平田:ナトリウムは1日1g以上にならないような食事にともかくしてくれ、という意向ですね。かなり難しいレベルを考えていますね。

佐々木:長い伝統がありますからそう急にはいかないにしても、これほど国際的に高血圧が大きな問題になってくる世の中になると、やはり目がそこに向いてくることは確かだと思うわけですね。

 

加工食品と塩分の問題

 

平田:一番ひっかかりますのは、われわれは科学的に今までのことからある程度の指向性を求めるわけですけれども、今度は一般の業者ですね。これは日本専売公社が一番の大本締めなんですけれども、この数年間の動きをずっとみていますと、ちょっと横這いですが、日本人1人当たりの塩分量としては大変な量を製造しているんですね。だいたい30gぐらい製造しているわけですね。

佐々木:それはあらゆる加工食品に入れていますから、また入れないと売れませんからね。

平田:いわゆる職業用の食塩の量、工業用とかその他特殊用何とかいうのもあるのですね。 かなり日本人の生活も都会化してきて、味噌、しょうゆという本来塩分の多い形の調味料というのはわりと減りつつある傾向なのですが、いわゆる加工品に私は大変大きな疑問をというか問題点を残していくのではないかと思うのです。

佐々木:それはそうだと思います。まだ法律的に全部そういうもののコントロ−ルがありませんから・・・。食品衛生法の中にもありませんし、要するに人間のほうの嗜好に全部合わせてできていますから。

 昔の話ですけれども、味噌業者が東北のほうに売る味噌には食塩を余計に入れて売っていたわけです。そういうことをいっていました。日本にアメリカのトマトジュ−スなんか入ってくるときは、わざわざそういうレベルを高くして売っているはずだと私は思います。日本人の嗜好調査でちょっとそういう話を聞いたことがあるし・・・。

 最初、弘前でリンゴジュ−スを売り出したときに、わざわざ食塩を加えて売っていたことがあるのです。だからリンゴジュ−スの宣伝を私はやらないんだといったことがありました。そういう面は人間の嗜好に合わせていきますから、それは難しい問題です。

平田:たとえば先程の小児の場合、母乳はナトリウムが少ないんですね。ところが牛乳となりますと2-3倍ぐらいあるんですね。私は不思議に思ったのですけれども、乳牛はおっぱいをたくさん出せるために塩分を余計にやるのだそうですね。やらないと、それでおっぱいをたくさん出させると、collapseに陥ってしまうらしいですね。だから、ある一定量がむしろ必要なのですね。それでプラスのプロダクションを多くするためにやっているのですね。がから、あれは牛乳というけれども、本来の完全なnormalのミルクではないのです。

 だから、そういうことから始まって、アメリカ小児科学会では乳児用食品すべてそういう塩分の多いものがあっても、含有量の少ないものもつくって、しかも同じ値段で同じに食べやすさで食べられるように勧告したというようなことをいっているのですね。すべてをそうしないまでも、だから、日本でもこれからそういうことを打ち出すという方向になりますと、業者はいろんな反応をするだろうと思いますね。

佐々木:それは当然だと思いますね。

平田:日本の専売公社自身もそういう面で考えを新たにして減産に向かうかどうか−−米が減産に向かってはかわいそおうな話なのですけれども−−、国民栄養の観点からいって、やはり国の施策にこれは影響があると思うのです。

 それで、今回の栄養所要量策定委員会で改訂するに当たっては、かなり社会的、ある意味では医学的なニ−ドを満たす、反面はエコノミックの反応を引き起こすかもしれない。そういうクリテイカルな時期を迎えてきたように思えますね。

佐々木:それは非常に大きな問題があると思いますね。

 ということは、私は最初に味噌のことをやりましたでしょう。そうしますと信州かどこかの味噌の業者が飛んできました。そこで私は味噌の分析値をお持ちにならないような業者じゃ困る、といった訳です。もっと声を大にして社会に訴えたほうがよかったかもしれないけれども、それはやらなかったので、じわじわ20年間かかってそういうことを言い続けてきたのです。味噌業者はちゃんとそれなりにだんだん変えて、今度はしょうゆでも何でもそういうものを作り始めて、この頃は食塩含有量の少ない製品をつくった業者が”どうですか、どうですか”なんていってくる。これは長い習慣がるからなかなか簡単にはいくものではない。ほんとうに食塩を科学的に理解してもらう立場で説明してきたつもりなんです。

 もう一つは、科学技術庁で一緒にやった仕事ですけれども、コ−ルドチェ−ンのことをやったことがあるんです。ご承知かとどうか知りませんけれども、資源調査会で、”食品の流通体系の近代化に関する勧告”というのを昭和40年に出したのですけれども、その時私は専門委員で”塩蔵から冷蔵へ”というrecommendationを出したことがあるのです。

 その背景は何かというと、日本の食生活が非常に食塩が多すぎるという問題、それはそれまでのデ−タからいうとどうも高血圧か脳卒中に非常に日本では関係がありそうだ。また必要な量より非常に余計摂っている。これは塩蔵によっている。まだはっきりしていなかったけれども、胃癌との関係もちょっとsuspectされたものですからね。

 人にいわせると、冷蔵庫が売れなくなって冷凍庫のついたものを売り出すための一つの施策だという人もいますけれども、コ−ルドチェ−ンというシステムをrecommendしたことがあるのです。それから10年間かかって塩蔵のものがどんどんなくなってきたという経過です。

 これはアメリカの後追いの形ですが、なるべく乳製品を増やそうということと関連があるので、方向としては結構でしょうということで合意したわけです。

 だいたい、食生活を変えようといってもなかなか変えられないのですけれども、それをなにかほかのほうのファクタ−から変えていこう、自然に食塩の摂取が減ることをねらっていった、という段階を経ているわけです。

 今度の策定委員会でどういうふうにされるか興味がありますね。何か出すんですか。どういうふうにもっていかれますか。

 

今回の改訂の方針

 

平田:今度の改訂では、委員会全体の意向としては取り上げたいんですね。いくつかの専門部会がございますね。ミネラル委員会というんですね。

佐々木:現状における問題点ですか、あえて数字を入れるわけですか。

平田:それを入れるか入れないかを検討するわけです。

 

問題が多い数値の利用のされ方

 

佐々木:難しいところですね。というのは、これは小学校から中学校、学校保健に始まってすべての教育に影響するわけです。

 ついこの間まで所要量に数字が出ていたために、非常に教育に苦労していると思う。また、文字通り15g必要だと理解して、それを100%とし、現在摂っているのが10gだから30何%は少ないという統計を出して、学校保健などで発表する人がいるわけです。そういうふうに利用されるでしょう。これがビタミンとかなんかだったら実害はないのでしょうけれども、なかなか難しいですね。

 そういう意味で、理由はとにかくとして、厚生省の答申に食塩についての数字がなくなったことを歓迎しているのです。サラッと受け流して、サッとなくなったというので私はかえってよかったのではないかと思っているのですけれども、今度それをどういうふうに先生方が取り上げられるか、私がチラッと聞いた話では、WHOでもrecommendationを出すのですよ。

 私は直接聞いた話じゃないので申しわけないのですけれども、会議に出ているある委員が耳打ちしてくれたので、5gなんていう線が出ているのだそうですね。

平田:西ドイツはもう出したのですね。

 

食品添加物としての食塩の位置づけ

 

佐々木:アメリカでもこの頃非常にうるさくなって、とにかくあらゆる食品の分析値を公表しろとかいうようなことがなにか出ていたらしくて、朝日新聞からこの間電話がかかってきました。要するに食品添加物の中における食塩の位置づけについての問題点を何か取り上げたいと記者の諸君がいっていました。”先生どうなんですか”ということで聞いてきたのですけれども、彼らはアメリカの資料を取り寄せてそう感じたらしいのですね。

 どれだけ根拠があってどれだけいっているのか今知りませんが、アメリカから私のところへ電報をよこしたところをみると、やはりかなり問題になっているのだろうという気はするのです。

平田:どうもそのニュ−スソ−スが確認できないのですけれども、1日3gということをいっていたのですね。

佐々木:アメリカでですか。

 

疾患の予防からみた食塩

 

平田:ええ。それは心筋梗塞とか高血圧もちろん含めて、cardiovascularの予防的な量としてはこの位が望ましい。ただ、公のUSAのallowanceにはまだ、前回の報告はありませんけれども、そこは入っていないのです。西ドイツはだいたい大人では食塩は5-8gをrecommendしております。

佐々木:先生なんかの委員会の立場だと、厚生省を通じてそういう国際的なデ−タが集められるのではないでしょうかね。

平田:それは今のところ国として正式に出したのは西ドイツだけですね。

佐々木:ドイツは伝統的に高いのですよね。

平田:ヨ−ロッパはそういう栄養の会議があるらしいのですが。

佐々木:今学会にはフィンランドの連中もずいぶきていましたけれども、フィンランドも結局WHOのstudyなんからいうと、日本と同じように脳卒中が多いのです。やはり食塩の問題が伝統的にあるので、かなりみんななんとかかんとかいっていますね。recommendするところまではいっていないのですけれども、目がそっちのほうに向いていくことは確かですね。

平田:あるいは先生のお考えとしては、もう少し世界の情勢をみるというのがこの場合は一応賢明であるというか、前回の5年前のを否定しないという・・・。

佐々木:私の考えは、これだけの量を摂らなければ命がもたないとかいうことは、日本人の普通の生活においては日常ほとんど考えられない。今、われわれが摂っている食事の食塩の形態は、人間がすべて食品につけ加えたものである。これが大部分である。それに目を向けろ。これはメネリ−という人が総説の中でいっているわけですけれども、”salt in the diet”はいいだろう”salt added to the diet”は考えものだ、というようなことですね。

 

低塩は慣れでできる

 

 それで、その人が慣れていけば、可能な限りlow levelに慣れていかしたほうが、いろいろな意味からいって得なのではないか、損だとか悪いという報告というか証拠はほとんどないのいではないか、ということなのですね。特別の病気の場合は別として、一般の普通の人に・・・。

 ところが従来は伝統的に、これだけ摂らなければなにか命がもたないような観念がつくり上げられてしまった。そこに誤りがあったのではないか。だから”減塩食”という言葉自体も私は必要なものを減らすというふうに受け取られるから賛成しない、”低塩食”だということをいったこともあるのです。

 そういうふうに頭の切り替え、そして具体的なフィ−ルドなどでやっている衛生指導からいえば、そう明日から塩絶ちしろなんていうことは賢いやり方ではない。1年後、2年後、3年後に、”ああ慣れてしまった”というふうにもっていければ、もっていけるのではないかと思うのです。それではお前それに証拠があるかといわれればあまりないのですけれども、今先生も努力しておられるように、7gか8g以下に下げることはまず普通にできないわけですから、そんなにうるさくいわなくてもいいだろう。

 そういうようなところが非常に実際的な考え方で、数字を示してしまうとなにかそれだけ摂らなければ命がもたないというような考えに陥ってしまうのですね。これはド−ル先生などの臨床的な非常に精密なmetabolismの観察からいけば、かなり少ない量でバランスがとれるのですね。汗とか下痢とか吐くとかいろいろアンバランスになったときは、もちろんそれなりに必要だということ、要するに出入りの問題ですから、そういう科学的な知識が一般の人にどれだけあるか。いまだって汗をかけばどんどん流れてしまうようにいっている人も、思っている人もたくさんいますけれども、人間の体はもっと精密にできていると思うのです。しかし下痢をしたときはやはりまずいとか、そういう常識といいますかね。

 ところが、今まで非常に極端な例のところの成績から、数字がつくりあげられてしまっている。それからわれわれの嗜好が、とのかく1,2%ぐらいの食塩のレベルがおいしい、それが一番人間的らしいとか、それをスタンダ−ドに置いてしまう。

平田:それは非常におかしい発想なんですね。ちょうど普通のス−プと血液の濃度が同じだから、そのぐらいの食物として全体の塩分含量もあるみたいな、これはもうほんとにナンセンスですね。

佐々木:だから、そういうふうに決められてきたということを理解してみれば、今の15gとか13gという数値はほんとうに理解できるのですけれども、そうは一般の人は思いませんね。そこに問題がある。

 

最少必要量を踏まえた努力目標1日10g

 

平田:私は表現として、日本人の将来の努力目標として、1日10g以下であることが望ましいという意味での適正な摂取量である、というふうな答申しようかと思っているのです。こういう立場上そうなったのですけれども、あくまでも努力目標だ、それが絶対的な何gを示してない。ただし私らの実際こうしたことも経験してみて、10g以下にするということは一つの努力を要します。

 ですから、ファ−ストステップはすでに13gぐらいまでの線があったのですから、その”次ぎは10g、その根拠は、最少必要量というものもあるのだ。今までのいい方ですと、最少必要量はド−ル先生の0.5gというのは、直ちにどうにもならない数値だから、数値を挙げておきながら、全く内容的には無視したんですね。だけどそれにはそれなりの根拠があったということも、やはり理解してもらわなくてはいけない。0.5gですまない場合もあり得る。それは、極端に汗をかいた場合どうかとか、それこそ大便の中でどうだとか、いろんな場合を踏まえて最少必要量というのはあるということもわかってもらいたい。最終のゴ−ルはそこにいくだろう。”そこまで書く必要はないと思うのですけれどの、そういう原始的な生活に戻る必要は必ずしもないと思うので、その間に味の開発が行われて、食塩以外にもっと人間の高等な食生活ができるようになれば、これはまたそういう方向が生まれてくるかもしれません。

 いずれにせよ、今の子供がほんとうに困っているのですよ。東邦大学には腎移植をした12歳の男の子がいるのですが、その子が何を好きかというと、普通なら子供は甘いものでクッキ−ですね。ところが、ポテトチプスとせんべいをくれ、こういう傾向があるのです。それはそういう加工品を親がいろいろ食べていることもあるわけですけれども、従来的なキャンデイとかスイ−トというイメ−ジから離れてきているのです。だから、アメリカ小児科学会はもちろんですけれども、塩分を減らすことはむしろ将来的な高血圧予防等も踏まえて国民的なニ−ドである。というふうに私は理解したいのです。そういう言葉を入れるかどうかは別ですけれども。

 そういうことで、当面の努力目標を委員会は揚げるということで臨みたいと思っています。

佐々木:現実に、東北地方あたりだったら実に難しいことですね。この間、山形でやった成績などでも平均21gですから、すごいですね。現実に今でもです。私らが秋田県などで食生活改善運動をいろいろ展開しても、壁に突き当たるわけです。非常に難しいですね。

平田:やはり生まれ育ったところの環境、そこの食習慣、これが現在そういう・・。

佐々木:関西の一部だとだいたい10gちょっとぐらいじゃないかと思います。

平田:いつのジェネレ−ションかで、どこかで補正していかないことには、ただ地域的にそうだから伝統的にそうだからといっても、それはやはり是正する方向で努力する。

佐々木:いまおっしゃったように努力目標が私は必要だと思うのです。ということは、それを示しておかなければ、なにかそれだけ摂らなければだめなんだというふうに思ってしまう。しかしだからといって、それじゃ今すぐそういうふうにもっていけるかということはなかなかいかないし、またわれわれのようなもう手遅れな人間に対してやや酷である。

平田:それが若いジェネレ−ションに反映していくような方向だと思うのですね。

佐々木:そういう何かを示しておいていただかなければ誤解を生むし、あのときの委員会は何をしていたんだなんていわれることになりかねませんね、歴史的にいうと。

平田:その辺の先生のご見解が得られるかどうかがまず一つあったわけです。ただ、頭の上で私が整理してもるとそんなことになりますので・・・。先生の忌憚ないところはだいたいわかりました。本当の理想像としては先生はもっと厳しくしていらっしゃると思います。

佐々木:私は疫学的に問題提起ということで論文を出しているのであって、それと現実とはまた別です。公衆衛生的な方法論はまた別だと思います。

 そのほかのもう一つ、さっきお話したようなコ−ルドチェ−ンなんかもやっていった。賛成していったわけです。

 

日本人の食習慣をいかに変えるか

 

平田:具体的には、日本人の食習慣を今後いかに変えていくべきかという一つの大きな課題になるわけなのです。

佐々木:そうです。そういう大きな目標がありますね。

平田:これは私が腎臓病の勉強をやっていっていろいろ塩分とひっかりが出てくる理由でもあるのですが、たとえば現在高血圧とかむくみがなければ塩分は普通でいいのだ。食事に関して野放し、食事療法なんてあまり関係ない、こういう考えもあるわけです。けれども、私なんかやっていますと、塩分に限らないのですけど、食事の管理、要するに食生活を管理できることは生活の管理につながるのですけれども、そういうことが非常に大きく病気の進行にかかわってきうるのですね。ですから、やはり、減塩というか、low saltの方向へもし習慣づけられるならば、改めていったほうがいい。今、高血圧がないからといって、腎臓病がはっきりある人が将来悪くならないという保証はできないのですから、そうであれば高血圧によくないと思われる塩分の摂りすぎは控えましよう、というのが私の基本的な考えでもあり、それを裏付ける研究成績もあるのです。それはさっきいったように反対される人もいるのです。

 そういうことで、国民的な食塩の摂取がどのぐらいのレベルにあることが本来的なのかどうか、やはりこの際打ち出しておくほうがいろいろな病気のために、広い意味で循環器病、腎臓病を含めて望ましいと思うのですね。その一つの努力目標ということが、たまたま私がこの道のメンバ−にされたからちょっと苦しいんですけれども、しかしこれは大変重要なことだと思います。

佐々木:大変重要だと思いますね。たまたま今食塩の問題が話題になりましたけれども、あらゆる方面でそういう考え方でrecommendしていただければ、われわれの向かうべき道がはっきりする。ところが今までは、そういう点がなかったと思うのですね。

 

カリウムの問題

 

 カリウムの問題がちょっと残ってしまったような感じですけれども、これは確かにわからないし、腎臓なんかやっている先生の中にはいろいろの考えをお持ちだと思うわけなのですね。

平田:カリウムというのは、私の理解する限りでは、栄養素でありますけれども、本来、自然食品に含まれる電解質なのです。ですから、その食品の範囲なら絶対安全なのだし、腎臓がよほど悪くても尿が十分に出ていれば、2,3gぐらいなら全く心配ないと思います。食品の調理の仕方によっていろいろのロスがあるので、24時間尿を調べてみるとカリウムもずいぶん幅があって、最近の日本人では平均約2.0gです。私自身のも調べてみたのですが、2.0gまでないですね。

佐々木:国際的に比べるとちょっと少ないという意見が多いのですね。

 もう一つは、まだちょっとひっかかっている問題があるといいますが、東北の秋田の人間などはそのカリウムに問題があるといいますか、少なすぎる。血清カリウムが少ないというデ−タを大阪成人病センタ−で出したのです。一番最初労研が出しまして、私はhomeostasisの関係でなかなかそうは変わらないだろうと思ったんですけれどもこの間のデ−タが出てきました。

平田:高血圧がなくてもですか。

佐々木:普通のpopulation surveyでです。それともう一つは、米それ自身に若干カリウムが少ないという問題もちょっとあるのですね。あと蛋白質が少ないということとからまって、potassium(カリウム)が少ないということと、さっきのメネリ−やなんかがやった慢性食塩中毒に対するprotective effectというのはどういうメカニスムスになっているかどうか、そこがまだちょっとわからないのです。

平田:血清カリウム・レベルというのは、もともとナトリウムについては非常に見事に正規分布で狭い範囲にビッシトおさまると思うのですが、カリウムは昔からlong normal distributionすそが広い分布なのでね。だから、あり方が全然違うと思うのです。ナトリウムは140mEq/lでせいぜい5mEq/lの幅で狭いですね。カリウムはせいぜい5から3mEq/lぐらいの間ですから、まして細胞内カリウム量から考えれば、細胞外液のカリウムはほんのひとにぎりです。

 だから、むしろそれはelectric potentialなり細胞膜活性で決まっていることなので、よほどそれが低いとなればこれは欠乏のことも考えますけれど、おそらく血清カリウムだけで欠乏があるとかないとかいうことは簡単にはいえないと思うのです。

佐々木:そうなのですね。

 この間のヤノマモ・インデイアンの血清カリウムがレポ−トされていないものですからちょっと残念なのですけれど、も、文献にはなにか溶血したからどうのとなんて書いてあったように記憶しているのです。

平田:あの民族は面白いですね。尿中のカリウム排泄が150mEq/lですね。

佐々木:非常にそれに近いデ−タなんですけれども、今度学会で発表するのですけれども、私らのほうでいま頭髪を分析しているのです。

平田:栄養の指標じゃなくてですか。

佐々木:ナトリウムとカリウム、そのほかのミネラルもやっているのです。だいたい方法論が確立してきたものですから。

 最近ニュ−ギニヤの非常にlow saltの、low blood presureの住民のサンプルが手に入りまして、比べてみますとちょうど日本の秋田と逆なんです。いまおっしゃったようにヤノマモ・インデイヤンと同じなので、非常にpotassium量が多い、それでlow saltなんです。秋田のほうはsodiumが多い、potassium 量が非常に低い、そこだけが有意に出ました。あと、カルシウムは同じ、マグネシウムも同じですが、亜鉛がちょっと違う。そのデ−タを今度出すのですけれども、それがどういうことになるか。

平田:面白いですね。あのヤノマモ・インデイヤンの論文でカリウムがあれだけ尿中に出ていて、しかも健康は保持されている。栄養は異常ないらしいのです。血圧はもちろん異常なし。

 ですから、カリウムを摂りすぎると害があることになっているのですけれども、あの民族はほとんどが山の幸だけで生活しているのでしょうから、本来的には自然食で、いわゆる植物を摂る民族というのはそういう結果になるのだっろうと思うのです。だからそれは決して害ではないし、またそれが血圧にいいということになるといえるかどうかわからないですけれど。

佐々木:人間以外の哺乳動物の自然の形なのですよ。

平田:最後に一つだけ先生のご意見をお聞きしたいのですが、近頃、血圧もそうなのですが、レニンの分泌を介してナトリウムよりクロ−ルが重要だという考えが出てきているのですが、どのように感じられておられますか。

佐々木:ちょっとよくわかりませんけれども、やはり総合的にうまく理解していくのでしょうね。ガイトンのやった特別講演ではあまりそれはいわなかったですね。

 

ナトリウムの問題とクロ−ルの関係

 

平田:まだそこまではみんないいきっていないのですけれど、腎臓の学問が、今までナトリウム中心に考えていた非常に重要な尿の濃縮機構というものが、クロ−ルを主体に置き換えられてきたし、レニンの分析をlow saltにして高くし、それをsodium chlorideで抑制する作用を分析してみると、chlorideのためだというもですね。

 そのようなことで、血圧の調節機構でも、ナトリウムよりクロ−ルという考えがあります。なにかSHR(自然発生高血圧ラット)がナトリウムよりクロ−ルで悪くなるとか、いろいろそういう新しいクロ−ルの面が取り上げられつつあるのですね。

佐々木:この間のサテライト・ミイ−テングで、どれだけ新しい問題がでたのか聞いていませんけれど。

平田:今までのスト−リイの中になにか大変な間違いがなければいいがというのが不安なのです。

佐々木:それは当然ですね。”あまり一つのことをいう人は世界に悪を及ぼす”っていっていた人がいましたよ。

平田:そのぐらいの余裕を持たしておかないといけませんね。

今日はお忙しいところをありがとうございました。

(1978年9月21日、第8回世界心臓学会会期中、東京にて)

(臨床栄養,54(5),413−424,昭54.)  

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