今から40年以上も前、弘前公園の中に出来たばかりの市民会館を会場に、第35回日本衛生学会という全国学会を開催したことがあった。
弘前としては始めてのことであるし、弘前大学医学部の衛生学教授になってあまり日の経っていない「若い」教授であった自分ではあったが、精一杯学会開催へ努力したことを思い出す。
昔の資料をみていたら「標題」のような学会開催へ向けて医学雑誌へ書いている文章があった。
「学会とは何であるのか」を考える機会でもあったが、書いている内容は現在にも通じることであると思うのでここに再掲することにした。
私の「衛生の旅」の一頁でもある。
「賢い生活の知恵を」 −−第35回日本衛生学会−−
2年前第35回日本衛生学会を弘前で引き受けることが内定して以来、”学会とは何であるのか”ということが私にかせられた大きな問題となった。研究にのみにおわれていた自分にとって、学会のあり方についてあらためて考えなおす機会があたえられたことを感謝しなければならない。それに私が専門とする衛生学への反省の機会ともなったのである。
衛生学を医学の、また基礎医学の一部門とする考え方が一般にはあると思われるが、衛生学を、衛生学と医学とみるみかたも必要なのである。私はむしろ後者をとりたい。
R.デュボスによれば、衛生Hygieneという言葉は、ギリシャの健康の女神に由来し、”理性に従って生活するかぎり、人間は元気にすごせるという信仰を象徴している”という。
また”日本の衛生学の特徴”で梶原三郎教授がふれられたように、”人類と環境(社会を入れて)との切線また切面に身をおき、その事情を感得することに勉めねばならぬ”。
その立場、姿勢で研究を行っている者の集まりであってほしいと思うのである。そして本当に健康ですごせるという賢い生活の知恵について語られ、論ぜられることを期待している。
弘前はみちのくのはるかな土地と思われるかもしれない。だがこの土地にはこの土地の伝統と風物がある。岩木山を望む弘前公園の中に新装なった市民会館を会場に、”津軽と医学と文化”が地元の方々によって語られる。野辺地慶三教授の”コレラ雑感”も聞きものである。また次期会長である岡山大学の大平昌彦教授の”地域における衛生学の現代的課題”でも、まさに弘前での総会にうってつけの内容が聞かれることであろう。
りんごの花咲く頃、若葉かおる5月14.15.16日の3日間、全国の専門家をお迎えできることはうれしことである。(第35回日本衛生学会会長(弘大教授)佐々木直亮)
追加:弘前大学医学部では、平成17年4月以降、衛生学講座また公衆衛生学講座は「社会医学講座」に統合され、名称が変更になっている。