昭和33年4月に熊本市(大洋デパ−ト)で第28回日本衛生学会総会(日本衛生学雑誌,13巻1号)が入鹿山且郎熊本大教授会長の下で開催されたとき、シンポジアム”高血圧の疫学”が初めてもたれた。このときの司会は吉岡博人先生(東京女子医科大教授)であった。私も発表の機会が与えられたが、「りんごが高血圧に効果がある」と日本のみなららず国際的にも報道されたことで記憶にあるシンポであった。
同年10月に九大で第13回日本公衆衛生学会が開催されたとき、吉岡先生は引き続いて「高血圧研究のための集会」を持ちたいと提案したところ、学会長の水島治夫九大教授はじめ大方の賛同が得られて、「第1回の自由集会”高血圧”」が開催されることになった。このことについて吉岡先生はその概要の記録を日本公衆衛生雑誌(5(11),344,昭33)に書いておられる。
これ以後日本公衆衛生学会が開催されるときには高血圧自由集会が継続行われることになった。私も世話人や司会を引き受けたことがあったが、その中で記憶にのこることを書くことにする。
第1回高血圧自由集会は世話人石沢正一助教授・尾形県衛生部課長で開催され、司会は吉岡博人教授で、テ−マは”自由討議”であった。
まず、高橋英次(東北大)は疫学の根本問題にふれ、「上医・中医・下医」の言葉をあげ、保健所は「中医」を、大学・研究機関は「上医」をやるべきだとの意味の話をされた。
辻達彦(群馬大)はスクリ−ニングをやりながらエチオロジ−を研究してゆくべきで、3者は分離されるべきでないと反論を述べた。
額田粲(京都府立大)は高血圧研究に関する用語を統一したいと述べた。
木村登(久留米大)はまず血圧測定法について規約をつくるべきであると述べた。
佐々木直亮(弘前大)は血圧測定法は目的によって違うだろう。それより測定に際して変動などについて討論したい。生命保険統計や国民栄養調査などではselected sampleになりやすいから、それによって今までのように地域差をつかもうとせず、集団検診によるべきだと述べた。
新井宏朋(千葉大)はスクリ−ニングはやはり必要で、血圧値だけでなく、眼底検査、心電図検査等から換算できるデ−タを出してゆくことが重要となってくると述べた。
集団検診の能率問題、眼底検査、眼底血圧測定の実際問題についての質疑応答があった。
山形操六(厚生省)から予算の問題について今までは医療機関の方に重点がおかれてきたが、漸く公衆衛生方面の高血圧対策にも力をそそぐようになった機運になっていると報告があった。
小松富三男(信州大)・野瀬善勝(山口大)・北博正(東京医歯大)ほか多数参加者の熱心な討論のうちに、最後に宮尾定信(熊本大)代理袴田氏より遺伝方面の話、勝木司馬之助(九大)代理高野氏よりの一離島(小呂島)における集団検診の話があった。
以上が吉岡先生がまとめられた要旨によって私が書いたものだが、高血圧の疫学についてのその後の各先生方の研究を思うと懐かしい記憶である。
高血圧自由集会はその後日本公衆衛生学会が開催されるたびに、世話人が準備をして継続されることになった。
私も世話人や司会を引き受けたこともあり、はじめそのテ−マは集団検診用の血圧測定基準であった。この資料は厚生省によってわが国で初めて行われることになった成人病基礎調査に際して参考にされた。
昭和40年10月第22回日本公衆衛生学会の際の高血圧自由集会の席上において、「今後この方面の研究に内科の側から専攻してきたものと公衆衛生疫学の側から専攻するものとが協力して、一方は個体の因子を、一方は環境因子を追究して脳卒中並びに心疾患の実態を明らかにし、これらの疾病の予防のみならず進んで管理までも行うための総合的な研究会の設立が強く要望された」。
日本循環器管理研究協議会が発会することになり、その趣意書に「高血圧自由集会」の要望が資料となり、昭和40年11月日循協が誕生することになった。私は文部省在外研究生として海外出張していた時で、日循協発起人名簿には名をつらねたが11月27日帝国ホテルで行われた発会式には武田壌寿助教授に出てもらったことが思い出される。日循協準備会代表として小林太刀夫・柳沢利喜男先生が指名された。
回数 年 学会 場所 世話人 司会 テ−マ 参加者 記録
1 昭33 13 福岡市 石沢・尾形 吉岡博人 自由討議 50名 日公衛誌,5,344,,昭33
2 昭34 15 新潟市 植松 吉岡博人 集団検診と血圧測定基準 97名
3 昭35 16 神戸市 諸岡 吉岡博人 血圧測定など協議 50名
4 昭36 17 東京都 諸岡 吉岡博人 集団検診用血圧測定基準 65名
5 昭37 18 広島市 田中・佐々木 佐々木直亮 高血圧についての諸問題 52名 日公衛誌,10,419,昭38
6 昭38 20 横浜市 統計調査部 佐々木直亮 成人病基礎調査の結果 98名 厚生の指標,昭38.11.(衛生統計自由集会と共催)
7 昭39 21 札幌市 佐々木 佐々木直亮 高血圧についての問題 43 結果プリント
8 昭40 22 大阪市 小町 大和田国夫 各代表報告 約200名 日循協発足資料そのIV
9 昭41 23 千葉市 柳沢 柳沢利喜雄 日循協に何を望むか 約100名
10 昭42 25 仙台市 重松 重松逸造 脳卒中の発作の予知について 85名
11 昭43 26 京都市 大和田 大和田国夫 循環器疾患の発症に及ぼす環境因子など 65名
12 昭44 27 岡山市 小林・岡田 佐々木直亮 高血圧の管理 約200名 日循協ニュ−スNo.4
13 昭45 28 名古屋市 小林・岡田 大淵重敬 循環器管理の諸問題 約100名 日循協ニュ−スNo..7
14 昭46 30 順天堂大 新井 小町喜男 行政と住民主体の脳卒中対策を考える 約150名
15 昭47 31 札幌市 芹沢 野崎俊夫・児島三郎 地域における循環器管理のあり方 約80名 日公衛誌,20,479
16 昭48 32 広島大 芹沢・宮西 小町嘉男 循環器疾患の発見から管理まで 約80名
17 昭49 33 福島市 森沢・山内 新井宏朋・磯村孝二 高血圧・脳卒中管理をめぐる諸問題
18 昭50 34 横浜市 柴田・杉田 福田安平・佐藤欣一 血圧を見直す、高血圧対策推進への試み 約100名
19 昭51 35 岐阜市 又吉・沢井 堀部博 高血圧対策における事後指導 117名
20 昭52 36 神戸市 小町・石橋 小沢秀樹 脳卒中半減対策を推進するために 約150名
21 昭53 37 東京都 高山・柴田 岡惺治・佐々木純郎 高血圧の保健指導
以上が私の手元で纏めた資料であるが、引き続き日循協事務局が世話人になり、日本公衆衛生学会に際して「高血圧自由集会」が継続開催されることになった。